現在では、iTunes Storeを開けば、いつでも海外の音楽や映画をダウンロードできます。Youtubeを開けば、いつでも海外の動画を楽しむことができます。逆に、日本のアニメや漫画、ゲームなどは、海外でも根強い人気を誇っています。
このように、著作物は国境を越えて利用されることがよくあります。その場合、著作物はどんなルールによって保護されるのでしょうか。
日本では、「著作権法」というルールによって著作物が保護されています。
しかし、「著作権法」は、あくまで日本の法律であり、原則として日本の国内で適用されるものです。
そして、当然ですが、外国にはそれぞれの国の法律が存在します。
このように、国を超えた著作物の取り扱いには、全世界共通の統一のルールはありません。
そこで、何らかの取り決めが必要となるところ、国際的な著作物の保護は、著作権に関する様々な条約を通して行われています。
今回は、それらの条約のうち、最も主要な「ベルヌ条約」について見ていきたいと思います。
1 ベルヌ条約とは何か?
ベルヌ条約は、正式には文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約といいます。
この条約は、1886年にスイスのベルンという場所で作成され、現在では、日本も含めて160以上もの国がこの条約の締結国になっています。
ベルヌ条約加盟国の国民や法人の著作物は、この条約によって保護されます。
2 ベルヌ条約と法律との関係
国を超えた著作物の取り扱いについて、ベルヌ条約が締結されているとしてもそれぞれの国には、著作物について定めた各国の法律が存在するはずです。
では、ベルヌ条約と各国の法は、どのような関係にあるのでしょうか?
実は、ベルヌ条約で定めたルールは、加盟国の国内法に取り込まれて、効果を発揮するのが一般的です。
したがって、国際的な著作物の取扱いについては、原則として、ベルヌ条約が直接適用されるのではなく、ベルヌ条約を取り込んだ各国の法律が適用されることになります。
3 ベルヌ条約が定めていることはどんなこと?
では、ベルヌ条約は何を定めているのでしょうか。
特徴的な定めとして、「無方式主義」と「内国民待遇」が挙げられます。
⑴ 無方式主義
「無方式主義」とは、
著作権は、著作物を創作すれば、何の手続も必要なく発生するという原則です。
つまり「無方式主義」の下では、絵を描いた人は、その絵を描いた瞬間から著作権者です。
このことは、当たり前のように感じるかもしれませんが、国によっては「方式主義」を採用しているところもあります。
「方式主義」を採用している国では、絵を描いた後に、何らかの手続をしなければ著作権は発生しません。
⑵ 内国民待遇
「内国民待遇」とは、条約の加盟国の著作者に対しては、自国の著作者と同等以上の保護をあたえなければならないという原則です。
少し分かりにくいかも知れませんね。
そこで、この原則がなかった場合を考えてみます。
内国民待遇がない場合、日本で創作した著作物は、外国では保護されない可能性があります。
そうなると、日本の著作物を海外にさえ持っていけば、そこで無断コピーをしても勝手に改変しても自由ということになってしまいます。
これを防止するのが内国民待遇の原則です。
この原則によって、日本で創作した著作物は外国においても著作物として扱われ、その国の法律による保護を受けることができます。
もう少し具体的に見ていきましょう。
たとえば、日本では、著作物に対して「著作権」という権利が与えられ、アメリカでは、著作物に対して「Copyright」という権利が与えられます。
そして、これら2つの種類の権利は、別々の国の別々の法律に基づくものです。
しかし、内国民待遇の原則があれば、日本の法律でも、アメリカの法律でも保護されることになります。
つまり、日本で著作物を創作した著作者は、日本の著作権の権利者として保護されるのと同時に、アメリカのCopyrightの権利者と同じように保護されるということになるわけです。
(ただし、すべて内国民待遇がとられるわけではなく、保護期間については、たとえば日本の50年より短い保護期間をさだめる国に対しては、相手国の保護期間だけ保護すれば良いなど違うルールがあります。)
4 もしも外国で著作権を侵害されたら・・・
以上で見てきたように、一般的なルールとして、A国の著作物がB国で利用される場合には、その著作物はB国の法律で保護され、逆にB国の著作物がA国で利用される場合には、その著作物はA国の法律で保護されることになります。
したがって、ある日ネットサーフィンをしていて、自分の著作物が外国のサイトで無断アップロードされているのを発見したらあなたはその外国の法律によって守られているはずです。
逆に、外国の著作物を、日本のサイト無断アップロードしてしまうとあなたは日本の法律で訴えられたり、処罰されたりするかも知れません。
インターネットによって、著作物のやり取りは世界各地で行われています。
外国の著作権なんて自分には無関係だと思っていると、思わぬ落とし穴にハマってしまうかも知れませんので、ご注意ください。
【執筆者】 弁護士 藤江大輔
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。