去る2013年6月4日。
埼玉スタジアム2002。
日本代表がW杯出場を決めたその日。スポーツバーでサッカー中継をご覧になった方も多かったのではないでしょうか。
最近では、多くのスポーツバーや定食屋にテレビが設置されていますが、そのなかには、通常の家庭用テレビよりもはるかに大きいテレビが設置されていることもあります。
これにより、多くの人が、大型テレビが設置されたスポーツバーなどで、スポーツ中継を視聴することができるようになっています。
しかし、テレビ放送を行っているテレビ局としては、視聴者に放送するのは自分たちの役目である、と考えているはずです。
そうすると、大型テレビなどを用いて、多くのお客さんにスポーツ中継を視聴させる行為は、テレビ局が本来予定している利用の範囲や程度をこえるものとも思えます。
それでは、果たして、スポーツバーにおいて大型テレビを設置し、テレビで放映されているスポーツ中継を上映することは適法なのでしょうか。
今回は、店舗でのスポーツ中継の上映とテレビ局の権利との関係について、見ていきたいと思います。
テレビ局に認められる権利とは!?
著作権法は、テレビ局のように、放送を業として行うものを「放送事業者」と呼んでいます(著作権法2条1項9号)。
著作権法上、放送事業者には、著作隣接権と呼ばれる権利が認められています。
著作隣接権とは、著作物の伝達に重要な役割を果たしているレコード製作者、放送事業者、有線放送事業者などに認められた権利のことをいいます。
情報を伝達する行為は文化の発展に貢献するものである、と考えられているからです。
放送事業者にも、著作隣接権として、様々な権利が認められています。
その中の一つに、テレビジョン放送の伝達権というものがあります(100条)。
このテレビジョン放送の伝達権が、スポーツバーでのスポーツ中継が適法かどうか、ということに関係します。
テレビジョン放送の伝達権とは!?
著作権法100条は、
『放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。』
と規定しています。
これは、どういうことかといいますと、放送事業者のみが、受信したテレビジョン放送を、影像を拡大する特別な装置を用いて、公に伝達する権利をもつということです。
「影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する」というのは、例えば、超大型テレビやオーロラビジョン、それから、ビルの壁面を利用した大型スクリーンやプロジェクターなどの大型影像装置を使用して、放送を上映することをいいます。
このように、テレビ局のみが大型影像装置を使用して放送する権利を持ちますので、一般の方が大型影像装置を使用して、スポーツ中継の上映を行う際には、放送事業者の許諾を得なければなりません。
放送事業者の許諾なく大型影像装置を使用して、スポーツ中継を上映してしまいますと、テレビジョン放送の伝達権侵害となってしまいます。
反対に、「影像を拡大する特別の装置」を使用していない場合には、放送事業者のテレビジョン放送の伝達権は及びません。
したがいまして、上映に使用した装置が「影像を拡大する特別の装置」にあたらない場合には、放送事業者の許諾なく、スポーツ中継を上映できるということになります。
それでは、どのような装置が「影像を拡大する特別の装置」にあたるのでしょうか。
設置されたテレビが家電用量販店で購入されたものである場合・・・
そのテレビは、家庭用テレビと思われますので、「影像を拡大する特別の装置」にはあたらないと考えられます。
もっとも、設置するテレビが、
(1) 通常の家庭用テレビに備わっていない特別な装置を備えていたり
(2) 大型家庭用テレビでは再現できないほどに画像が鮮明であったりする場合には
「影像を拡大する特別の装置」にあたると判断されてしまう可能性があります。
現在では、家庭用テレビも大型化、鮮明化しているため、大型のテレビであっても、果たしてそれが、通常の家庭用テレビであるのか、
それとも「影像を拡大する特別の装置」にあたるのか、はっきりとしているわけではありません。
そのような意味では、常識的なものを利用すれば違法にはならない、と考えておくべきなのかもしれません。
【執筆者】 弁護士 小鷹龍哉
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。