スタジオジブリの宮崎駿監督が引退の意を表明されてから、約1ヶ月ほどが経つでしょうか。
スタジオジブリは世界中から高い評価を得ていますし、スタジオジブリだけに留まらず、日本のアニメーションは世界から支持されています。
ところで、アニメと言えば、 当然著作権があるものだと理解されていますし、 ひょっとすると著作物の代表格であるような印象があるかもしれません。
しかし、アニメの素材となる「セル画」を描く職種、 「アニメーター」と呼ばれる方々の著作権は、あまり論じられていません。
そこで今回は、「アニメーター」の著作権について考えてみましょう。
1.アニメの著作権者は誰?
アニメは、通常、1人で作成するものではなく、 大勢の方々が一緒になって制作していくものです。 では、アニメは、著作権法上、どのように評価され、 誰が著作権者になっているのでしょうか??
アニメ作品は、言語、美術、音楽の著作物が複合的に合体した 「映画の著作物」と位置づけられます。 そして、映画の著作者については、著作権法は次のように規定しています。
著作権法第16条(映画の著作物の著作者)
映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、 又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、 制作、監督、演出、撮影、美術等を担当して その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。 ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。
この規定によれば、「監督」、「演出家」、「キャラクターデザイナー」など、 アニメ作品に関わった多くの者が、 アニメ作品の「著作者」に該当することになります。 アニメ制作会社が外部の個人や会社に制作作業を発注した場合は まさに彼らが著作者となります。
2.アニメーターの著作権
このように多数の職種が関わり合うアニメ制作ですが、 その中でもアニメーターは、「セル画」を実際に描いていく職種です。 このセル画が連続して映し出されることによって、 アニメ作品は動画映像として成り立っています。
しかし、先ほど述べたように、キャラクターデザイナーなどが アニメ作品の著作者として扱われるのとは異なり、 アニメーターはアニメ作品の著作者にならない可能性が高いと思われます。
これは、アニメーターが個々の画面形成には寄与しているものの、 「映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した」とは考えにくいからです。
アニメ作品は、セル画を連続して映し出すことによって成立するものですから、 少なくともアニメ作品がセル画を利用していることは事実です。 しかし、アニメ作品は無数のセル画が連続して構成されているに過ぎず、 アニメ作品をセル画の二次的著作物として評価することも難しいと思われます。
とすれば、結局アニメーターはセル画についての著作権を持っていても、 「アニメ作品について何らかの著作権法上の権利を持つ」 と、評価するのは難しいのかもしれません。
しかも、アニメーターによるセル画制作は、 アニメ制作会社との関係では、職務著作として扱われ、 いきなりアニメ制作会社が著作権者となり、 そもそもアニメーターはセル画についての著作権すら 持つことができない可能性もあります(著作権法第15条)。
いずれにせよ、セル画を制作するアニメーターは、 現行の著作権法上かなり厳しい立場に置かれています。 理屈としては、契約の工夫で手当てすることは可能ですが、 アニメーターを保護できる契約を現実的に締結できるかどうかは どうしても疑問符がついてしまうところです。
このような厳しい状況もあってか、最近は作画の海外発注が増加し、 国内アニメーターの人材空洞化が指摘されていますが、 残念ながら、そこには容易に解決しにくい問題があるのかも知れません。
【執筆者】弁護士 藤江大輔
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。