スマホゲーム業界で主流になっているパブリッシング契約のポイント

1.パブリッシング契約って、どういう契約書?

パブリッシング契約とは、業界により多義的意味で使用されていますが、スマホゲーム業界の場合には、スマホゲーム開発者(デベロッパー)が外国地域に配信する際、配信地域の現地企業(パブリッシャー)に現地プロモーションやローカライズを一括して依頼するために締結する契約をいいます。

 

最近では、2014年6月に、ROVIO ENTERTAINMENT LTD.とユナイテッド株式会社との間で、世界的に大人気のスマホゲーム「Angry Birds」に関するパブリッシング契約が締結されたことが話題になりました。

 

その他、株式会社gumiや株式会社Cygames等の日本発スマホゲーム会社の輸出事例や、韓国企業からLINE株式会社への輸入事例なども市場を賑わし、パブリッシング契約による輸出入の展開が活発化してきております。

 

2.パブリッシング契約の内容

パブリッシング契約において最も重要な条項は、スマホゲームの著作権者であるデベロッパーから、パブリッシャーに対するライセンス許諾条項にあります。

 

その他にも、ローカライズに関連し、相手方への開発・運営義務といった民法上の「請負」又は「準委任」の性質を有する条項や、秘密保持義務、収益配分の支払義務、知的財産権の帰属に関する条項、広告支出義務など、性質が異なる条項が多く規定されていることも特徴的です。

 

これらの条項を一つ一つ慎重に検討した上で契約を締結する必要がありますので、重要な条項について、以下で解説していきたいと思います。

 

3.ライセンス許諾条項

ライセンス許諾を行う上で最も重要な点は、(1)ライセンスの対象範囲、(2)ライセンスの許諾範囲です。

順を追って説明していきます。

(1)ライセンスの対象範囲

ライセンスの対象範囲としては、以下が考えられます。

 ・ゲームを構成するシナリオ、キャラクターデザイン、背景画像に関する著作権

 ・キャラクターの声、効果音、BGMに関する著作権

 ・ゲームを構成するソースコードに関する著作権

 ・ゲームタイトルに関する商標、ロゴに関する商標

 ・ゲームエンジンに特許権を取得している場合には、当該特許権

 

上記の様なゲームを運営する上で必要となる権利が、ライセンスの対象範囲に含まれているかを確認する必要があります。

 

また、パブリッシャーとしては、ライセンスを契約により許諾されたものの、シナリオは外注に出しており、デベロッパーが著作権を保有しておらず、シナリオを使用できないといったケースも考えられます。

このような場合に備えて、いつでも契約解除、損害賠償を請求できるように、デベロッパーによる保証条項が規定されているかも確認することが重要です。

(2)ライセンスの許諾範囲

ライセンスの許諾範囲としては、以下を確認することが重要です。

 

配信地域:国の指定が明確になされているかを確認することが重要です。

よくあるのが「東南アジア」、「北米」と記載されている契約も多く、北米にメキシコは含まれるのかなどが問題になります。

配信PF :配信PFの指定も重要です。

現在の市場では、Apple、Googleのみを規定すればよいと考えられる方も多いですが、中国ではPFが乱立しているなど、PFの指定として適切か、市場を踏まえて確認することが重要になります。

利用制限:ゲーム内の利用以外の範囲にも許諾が及んでいるかも確認しましょう。

例えば、TVCM、WEB広告、自社HPといったクリエイティブに対する利用を許諾されているかを確認する必要があります。

パブリッシング契約を締結したものの、WEB広告の許諾を得ておらず、マーケティングに支障をきたしたケースもありますので注意する必要がある条項です。

 

4.収益配分条項

デベロッパーは、収益配分による収益を目的としてパブリッシングビジネスを実施しますが、単に収益配分の割合を定めればよいと考える方も多くいます。

しかし、以下の点には注意する必要があります。

 

割合基準:グロス売上(純収益)を基準とするか、ネット売上(純収益からPF手数料などを控除した金額)を基準とするかがまず重要となります。

また、仮にネット売上を基準とした場合には、純収益から控除する金額に、どのような額を算入するかも重要になります。

とりわけ海外に展開するスマホゲームの場合、ユーザーの返金要求も多額になるときも多く、控除額にユーザーによる返金額を算入するか否かも重要な論点となっております。

支払時期:デベロッパーの場合、特に支払時期について気を付ける必要があります。

例えば、「売上が発生した当該月の翌月末日にパブリッシャーに対し支払うものとする。」と規定した場合、売上が発生したとしても、AppleやGoogleなどのPFから実際に入金がまだされていない段階でパブリッシャーに対し支払い義務を負うことになってしまいます。

キャッシュが潤沢にある場合は別として、「入金日の翌月末日」と規定するなど、キャッシュフローに考慮した取り決めをする必要があります。

 

5.知的財産権の帰属に関する条項

パブリッシングの場合、現地でのローカライズ化が非常に重要となっていますので、法的には二次的著作物の取扱いに気を配る必要があります。

 

デベロッパー側からすると、ゲームの基盤となったキャラクターから派生した著作物は、作成した時点でデベロッパー帰属とし、その他の海外展開に利用できるようにすることが知的財産権の有効活用として良い方法です。

一方で、パブリッシャーからすれば、自らが工数・費用を費やし、ローカライズ化した著作物が他地域で自由にフリーライドされてしまうことは得策ではありません。

派生著作物といえ、独自に作成した著作物は自らの帰属としたいと考えることが通常です。

 

この点、ゲームの配信終了後に、二次的著作物の権利をデベロッパーに売却する条項や、著作権はデベロッパーに帰属させるが、他地域への展開はパブリッシャーの承諾条項とするなどのバランスをとった交渉をすることも得策といえます。

 

6.おわりに

その他にも、デベロッパーによるクリエイティブ監査条項、撤退条項、他地域パブリッシングの際の優先交渉条項など、重要な条項がございます。

ついついデベロッパーの言いなりになりがちなパブリッシング契約ですが、後々多くの紛争が生じる可能性もありますので、契約締結段階でしっかり交渉していくことが重要になります。

 

当事務所では、パブリッシング契約に関するドラフト・レビュー・交渉も行っており、英文契約書での対応も可能となっています。

パブリッシング契約でご相談の際は、是非当事務所までご相談ください。

 

【執筆者】 弁護士 橘 大地

※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。

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