ある日ネットサーフィンをしていたら、自社のホームページとそっくりなホームページがあった!どう見ても自社ホームページを真似されたとしか思えないので、ホームページ掲載をやめてほしい!!
そのようなとき、どのように対応すればよいのでしょうか。
自社ホームページと類似したホームページの掲載を削除ないし修正してもらいたい、このように相手方に権利侵害行為をやめるよう求めること、ホームページでいえば、類似したホームページを削除・修正するよう求めることを「差止請求」といいます。
「ホームページを真似された、やめさせたい」という事案では、
〔1〕著作権法に基づく差止請求、及び、〔2〕不正競争防止法に基づく差止請求 ができないかを検討していくことになります。
〔1〕著作権法に基づいて差止請求をする場合
著作権法112条(差止請求権)は、その第1項で「著作者、著作権者…は、その著作者人格権、著作権…を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」と規定し、第2項で「著作者、著作権者…は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物、侵害の行為によって作成された物…の廃棄その他の侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができる。」と規定しています。
著作権法に基づき類似ホームページ掲載をやめるよう求める場合、この規定に基づいて差止請求をしていくことになります。
裁判では、主に下記の点が問題になります。ちなみに下記については、権利を侵害されたと主張する差止請求者(原告)が主張・立証しなければなりません。
①権利帰属:請求者(原告)が著作物(ホームページ)について著作者の権利を有すること
- 著作物性(自社ホーム―ページが「著作物」といえること)
- 権利取得原因事実(自己創作、職務著作、承継取得等)
②権利侵害:相手方(被告)の行為が、原告の著作権を侵害すること
- 利用行為(被告が、利用行為またはみなし侵害行為〔複製、公衆送信等〕を行っていること)
- 依拠性(被告の著作物が、原告の著作物〔またはその二次的著作物〕に依拠して作成されたものであること)
- 類似性(被告の著作物と原告の著作物とが、同一〔デッドコピー〕または類似すること)
上記①、②の点いずれも認められる場合、今度は相手方である被告が、抗弁として、例えば権利者による許諾があったことや、正当な引用であること等を主張することになります。
①の権利帰属、②の権利侵害ともに重要な問題なのですが、議論が多岐にわたるところですのでスペースの関係上ここでは割愛し、裁判手続きを取る場合の流れについてご紹介します。
※なお、②のうち「依拠性」「類似性」については、『釣りゲー訴訟にみる、コンテンツのパクリ(盗作)と著作権』で詳述していますのでご参照ください。
(1)訴訟提起前の手続き等
- 証拠保全
ホームページ等は複製物を削除、修正する等して侵害の証拠を隠滅することが容易ですので、訴訟提起に先立ち、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難」であるとして、証拠保全をすることができます(民事訴訟法2345条)
もっとも、差止訴訟においては、複製物を削除・修正してもらえれば請求者の目的は達成できますので、複製物が削除、修正され侵害行為が終了している場合には原則として差止訴訟の提起はできません(将来再び侵害されるおそれがある場合、侵害の「予防」が請求できます。)。したがって、証拠保全が有用となるのは、著作権を侵害されたことにより被った損害の賠償を請求する場合ということになります。
- 差止の仮処分
類似ホームページの差止訴訟等、知的財産権が問題になる訴訟では、本案の判決確定までに時間がかかるため、訴訟手続きを行っている間にも被告による侵害(類似ホームページの掲載)が続いてしまうことになり、判決確定を待っていては、たとえ勝訴したとしても回復できない損害が発生してしまうことがあります。このような場合に、権利者に生ずる著しい損害等を避けるために、迅速な手続きで、告知により直ちに執行が可能である「差止の仮処分」の申立てをすることがあります。
仮処分の申立ては費用が安くてすみますし(2000円に債権者又は債務者の数の多い方の人数を乗じた額)、申立人において一方的に取り下げることも可能です。また、裁判所の判断を早期に求めることができますので、著作権紛争において迅速な解決手段として利用されています。
また、裁判所の判断前でも、仮処分の審尋期日に、著作権侵害をした相手方(債務者)との間で許諾料の支払いを含む許諾契約を締結するなどの内容で和解をすることも多く、早期の解決も期待できます。
(2)訴訟手続き(本案)の流れ
- 侵害訴訟は、原告が裁判所に訴状を提出することによって開始します。
訴状には、原告、被告の氏名や住所の他、原告に著作権が帰属していること、その著作権が被告によって侵害されていること等を記載します。
なお、ホームページ全体が模倣されているわけではなく、その一部のみ模倣された場合(たとえばホームページ上のイラストのみ模倣された場合)、当該模倣されたイラスト部分について掲載をやめるよう求めることができます。
もっとも、模倣されたのが一部だけの場合でも、著作権を侵害する部分が他の部分と不可分で、侵害部分のみを削除することが不可能な場合には、被告の著作物全体の差止が認められる場合があります。
訴訟手続き開始後の流れの一例を示すと以下のとおりです。
(3)和解による解決
訴訟係属中、裁判所は、いつでも当事者に対し、和解の勧告をすることができます。
著作権侵害訴訟においては、判決で被告による著作権侵害が認定され、被告による著作物利用を差止めるよりも、ライセンス契約を締結して許諾料支払いの合意をしたり、補償金の支払いを合意したりする方が双方のビジネスにとって有用であることが少なくありません。
また、原告があくまでホームページ掲載差止めを求める場合でも、裁判所により専断的に下される判決によるよりも、双方の納得した上での和解の方が、被告側も早期に侵害ホームページ掲載をやめてくれることが期待できるといわれています。
〔2〕不正競争防止法に基づいて差止請求をする場合
不正競争防止法では、他人の氏名、商号、商標等、需要者の間に広く知られているものと同一又は類似の表示を使用して、自己の商品又は営業の出所について混同を生じさせる行為を禁止しています。
そして、不正競争防止法においても、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。(法3条1項)」と定められています。
したがって、自社ホームページとそっくりなホームページが、自社の商号や商標と全く同じものを掲載していたり、全く同じでなくても、取引者又は一般需要者が誤認混同する恐れがあるほど類似していたりする場合、不正競争防止法に基づいて侵害者に対し差止の請求ができます。
なお、不正競争防止法に基づき差止め等を請求することができるのは、「不正競争」によって「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」ですので、一般消費者の場合には原則として請求主体性が認められません。もっとも、判例上、公益法人、病院、特定非営利活動法人等の公益事業や非営利事業を目的とする者やライセンシーにも請求主体性が認められています。
【執筆者】 弁護士 本間由美子
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。