ここ数年に渡って好況が続いてきたIPO市場ですが、2020年3月はコロナショックの影響でIPOを中止する企業も複数出てきました。そんなIPO市場において、近年のIPOマーケットのプレーヤー実績はどのようになっているのでしょうか?
2019年のIPO市場を、
- 上場市場
- 主幹事証券
- 監査法人
- 証券代行
ごとのIPO件数でまとめてみました。
本記事の目次
市場別IPO数ランキング
東証マザーズがトップ独走、過去7年間で最高実績
まずは市場別IPO数のランキングです。マザーズの独走状態がいつまで続くのか、過去7年間の市場別IPO数ランキング推移表にご注目ください。
市場別IPO数ランキング
市場別IPO数ランキングでは、2018年以前の過去6年間は、1位が東証マザーズ、2位はジャスダックでしたが、久しぶりに順位が変動して、1位が東証マザーズ、2位が東証2部になりました。
2018年から2019年にかけて、IPOの総数は4件減少しています。市場別で前年と比較してみると以下のようになっています。
- 東証マザーズ:+1件
- 東証2部:+6件
- ジャスダック:-8件
- 東証1部:-6件
- 札証アンビシャス:±0件
- 名証セントレックス:+1件
- 福証:+1件
- 福証Q-Board:+1件
今年マザーズが過去7年間で最多のIPO数を記録し、2位との差が広がっています。2019年IPO総数に占めるマザーズのシェアは74.4%で、2013年の53.7%から徐々にシェアを広げてきました。
ジャスダックに関しては、IPO数が大きく減少しているのが気になります。ジャスダックには、スタンダードとグロースの2市場がありますが、グロースに関しては2013年6月の株式会社リプロセルを最後に新規上場は行われていません。新興企業向け市場としてはグロースとマザーズがありますが、新興企業がマザーズで上場しているものと推測されます。
札証アンビシャス、名証セントレックス、福証、福証Q-Boardと、地方市場への上場は7年間の中で最も多くなっています。中でも福証は6年ぶりの上場となりました。
来年以降に影響を与える要因として、2019年12月25日に、東京証券取引所の市場改革に関する報告書案が金融審議会に大筋で了承され、12月27日に金融審議会市場ワーキング・グループ市場構造専門グループ報告書が提示されました。この中で、東証1部、東証2部、マザーズ、ジャスダックスタンダード、ジャスダックグロースの5市場を、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編することや、TOPIXの範囲の見直しなど、2022年上半期を目途として変更を開始するよう提言されています。
- 金融審議会市場ワーキング・グループ市場構造専門グループ報告書(金融庁 2019年12月27日付)
市場再編を控えて、どの市場にどのタイミングで上場すべきなのか、IPO企業は選択を迫られることになります。
主幹事証券別IPO数ランキング
野村證券が首位転落
次に主幹事証券別のIPOランキングを見てみましょう。
主幹事証券別IPO数ランキング
※主幹事証券が複数ある場合は、各証券会社に1件ずつ集計しています。
主幹事証券別IPO数ランキングはSMBC日興証券と大和証券が20件ずつ実績を上げて同率首位になりました。昨年まで2年連続で首位だった野村證券は、3位に転落しました。ただし4位以降のみずほ証券も拮抗しており、翌年度以降の順位変動が予想されます。
なお野村證券の2013年から2019年の7年累積件数は2位以下を大きく引き離して1位になっています。
【主幹事証券上位5社のIPO件数の推移】
2013年と2019年を比較すると、IPO総数は54件から86件へ1.5倍強に増加しています。他方、2013年と2019年の件数を比較すると野村證券は3分2、大和証券は3倍、SMBC日興証券は4倍となっています。来期以降も大和、SMBC日興の躍進は続くのでしょうか。
監査法人別IPO数ランキング
EY新日本が2年連続の首位に。2位トーマツ、3位あずさもEY新日本と僅差
次に監査法人別にIPO件数を比較してみます。
監査法人別IPO数ランキング
※2018年7月2日に太陽監査法人と優成監査法人が合併しています。2018年のIPOに関して、優成監査法人のIPO1件は2018年末時点の存続法人である太陽監査法人に含めて集計しています。
IPO件数ランキングでは、EY新日本監査法人が昨年から引き続き首位になりました。EY新日本監査法人も昨年と比べて7件減少していますが、トーマツは昨年と同数、あずさは昨年から減少しているため、僅差で首位になった形です。また、昨年3位の監査法人トーマツが2位に浮上し、あずさは3位に後退しました。
2018年から2019年にかけて、四大監査法人の実績に関しては、
- EY新日本監査法人:22件(対前年-7件)
- 監査法人トーマツ:21件(対前年±0件)
- あずさ監査法人:19件(対前年-6件)
- PwCあらた監査法人:5件(対前年+2件)
と合計で11件のマイナスになっています。
また、準大手監査法人の実績を前年と比較してみると、
- 太陽監査法人:8件(対前年+1件)
- BDO三優監査法人:4件(対前年+3件)
- 仰星監査法人:2件(対前年+2件)
- 東陽監査法人:0件(対前年-1件)
- PwC京都監査法人:1件(対前年±0件)
と5件のプラスとなっております。太陽監査法人は毎年実績を伸ばし、BIG4監査法人の一角であるPwCあらた監査法人を押さえて、2013年以降のIPOの合計数で4位につけています。
中小監査法人に関しては、前年からの変化は以下のとおりです。
- 監査法人A&Aパートナーズ:2件(対前年+1件)
- ひびき監査法人:0件(対前年-1件)
- 大有監査法人:1件(対前年+1件)
- 海南監査法人:1件(対前年+1件)
大手監査法人が減少した一方で準大手監査法人と中小監査法人が増加しています。また、中小監査法人よりも準大手監査法人の方がより増加しています。
もともとIPOはEY新日本、トーマツ、あずさの3法人による寡占状態でしたが、2017年の夏頃から、これら大手監査法人がIPO準備企業を中心に新規の監査契約を控える動きがありました。その流れを受けて、準大手監査法人と契約するIPO準備企業が増えてましたが、2年経った2019年になり、IPO実績への影響が表れてきたようです。
証券代行別IPO数ランキング
三井住友信託銀行2013年以来の単独トップ
次に、証券代行別IPO数ランキングをご紹介します。
証券代行別IPO数ランキング
証券代行は、2019年は三井住友信託銀行が6年ぶりに単独でトップとなりました。
証券代行に関しては、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行、みずほ信託銀行が3強で、過去7年連続で9割以上のシェアを占めており、7年間の累計代行率を見ると、三菱UFJ信託銀行43.2%、三井住友信託銀行31.6%の順となっています。
近年は三菱UFJ信託銀行がトップを続けていましたが、2018年は三井住友信託銀行が三菱UFJ信託銀行と同数でトップとなり、2019年には6年ぶりに単独トップを奪還した構図となっています。
以上、2019年のIPOランキングをお届けしました。
2020年のIPOマーケットや監査法人ランキングはどのような結果になるでしょうか?継続してウォッチしていきますので、ご期待ください。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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<本記事の補足>
複数の証券取引所に同時上場の場合には、市場規模が大きいもののみカウント。東京証券取引所>名古屋証券取引所>札幌証券取引所>福岡証券取引所の順で優先しております。具体的には以下の銘柄です。
【上場日、社名、集計した市場(集計対象外とした市場)】2013/3/27、タマホーム、東証1部(福証)/2014/12/24、ヨシックス、ジャスダック(名証2部)/2014/5/22、東武住販、ジャスダック(福証Q-board)/2015/3/26、プラッツ、東証マザーズ(福証Q-board)/2015/6/25、メニコン、東証1部(名証1部)/2016/3/9、プラス、東証マザーズ(名証セントレックス)/2016/6/15、ホープ、東証マザーズ(福証Q-board)/2016/6/29、コメダホールディングス、東証1部(名証1部)/2016/10/25、九州旅客鉄道、東証1部(福証)/2016/11/22、WASHハウス、東証マザーズ(福証Q-board)/2017/2/10、安江工務店、ジャスダック(名証2部)/2017/3/23、グリーンズ、東証2部(名証2部)/2017/8/3、シェアリングテクノロジー、東証マザーズ(名証セントレックス)/2017/12/25、ABホテル、ジャスダック(名証2部)/2018/12/21、ポート、東証マザーズ(福証Q-board)/2018/12/21、テノ.ホールディングス、東証マザーズ(福証Q-board)/2019/2/27、東海ソフト、東証2部(名証2部)/2019/4/3、東名、東証マザーズ(名証セントレックス)/2019/10/18、浜木綿、ジャスダック(名証2部)/2019/10/18、ワシントンホテル、東証2部(名証2部)
<免責事項>
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