改正著作権法で違法ダウンロードが10月1日から刑罰化されたことはメディア上でも大きく取りざたされ、大変な話題となっています。
でも、実は今回の著作権法改正、違法ダウンロード刑罰化以外にもひっそりといくつかの改正がされていたことをご存知ですか??
そのひとつが、タイトルにも書いた『いわゆる「写り込み」等に係る規定』の整備です。
名画をコピーしたり、写真に撮って複製すること、有名なキャラクターを自社HPに無断掲載すること、・・・これらが著作権法違反(複製権侵害、公衆送信権侵害)になる、というのは著作権法の基本です。
では、ここで質問です。
Q1 家族写真を撮りました。HPに載せようとしたところ、子どもがミッキーマウスが描かれたTシャツを着ていることに気が付きました。著作物を写真で現像しても著作権法違反だっていうけど、この写真は、来年の年賀状にも使おうと思って撮った写真だったのに・・・。この写真をHPに載せたり、年賀状に使うことも著作権法違反になってしまうんですか?
Q2 インタビューで作家さんのお宅へ。インタビュー風景の写真を撮ったのですが、編集会議で確認したところ壁にはクリスチャン・ラッセンの絵画が。全国紙に掲載する写真が必要なのですが、撮り直ししなければだめなのでしょうか?
Q3 街頭インタビューをしていていましたが、商店街のアーケードではAKB48の曲がずっと流れていました。インタビューを放映すると、AKBの曲も一緒に流れてしまうのですが、著作権法違反になるのでしょうか?
なんと、Q1もQ2もQ3も、現行著作権法では、形式的には著作権侵害、つまり違法になってしまっていたのです。
でも、なんだかおかしいですよね。
その「なんだかおかしい。」を、今回の改正では明文で合法にすることになりました。
著作権法第30条の2(付随対象著作物の利用)
写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は、同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
長くて読みづらいですね・・・。
ポイントは、
- 写真の撮影、録音又は録画の方法によって著作物を創作するに当たって、
- 分離することが困難
- 軽微な構成部分 なものは、
- 当該創作に伴って、複製又は翻案することができる。 ただし、
- 著作権者の利益を不当に害することとなる場合 にはダメ。
というところです。
1は分かりやすそうですね。
「著作物を創作するにあたって」という要件が入っているので、映画の盗撮行為は今回の改正でも正当化されません。
2は、分離が困難なものまで違法になったら困るよね、合法にしよう、という規定です。
・・・けれど、Q1の例で、子どものTシャツを脱がせて写真を撮るのって簡単ですよね。Q2の例でも、ラッセンの絵がうつらないようにトリミングするのも簡単です。どちらも分離困難ではないから、今回の改正では適法化されないのでしょうか?
結論からお話しすると、今回の改正では、上記のような場合も合法化されています。
文化庁の報告によると、上記キャラTの場合も「わざわざキャラクターを除いて子どもを撮影することまで求められているとは考えられず、原則、客観的にみて困難であると考えられる。」としており、「社会通念上困難」だったり「客観的に見て困難」な場合には、2の要件にあたり合法、とされています。
また、Q2の例のように、撮影時に分離が困難だけれど、後から分離することが簡単、という事例でも、30条の2にあたる、すなわち、適法になる、とされています。
ただし、放送局がドラマのセットでキャラクターのぬいぐるみを置いて撮影するような場合まで、社会通念上困難、といえるかどうかは微妙とのことですので、基準としては不明確な部分もあります。
今回の改正で整備されたようなキャラクターTシャツのような事案が違法、というのは誰が聞いても違和感があるしおかしいと思うところだと思います。
やっぱりおかしいので、これまでもQ1~3のようなことで権利者が文句を言ったり問題になることはほとんどありませんでしたし、たとえ裁判になってしまったとしても、それは侵害にはあたらない、という結論が出されていました。
今回の改正は、当たり前のことを当たり前に規定した、という趣旨の条文になっています。
新設された条文では、上記の要件があるほか、著作権者の利益を不当に害してはならない旨の縛りもされています。「写り込み」の名目の下で著作物を複製することが目的であるような利用法までは許されません。
そのような意味では、どのような利用ならば許されるかはやはり曖昧です。改正前も改正後も、常識的な利用をすれば違法にはならない、という程度のことしかいえないのかもしれません。
いわゆる「写り込み規定」は平成25年1月1日施行予定です。
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。