youtubeの成長の裏にある「違法アップロード・著作権問題」
youtubeは、設立から1年で、Googleにより16億5000万ドル(約2000億)で買収されました。
youtubeの圧倒的な成長の裏にある法務戦略は、電子書籍、レビューサイト、コンテンツのプラットフォーム等のビジネスを行う日本のベンチャーにおいても非常に参考になるため、GVA法律事務所が分析を行いました。
著作権問題を抱えるyoutubeをGoogleが買収
youtubeは、2005年(平成17年)2月、アメリカで設立されました。
その後の2006年(平成18年)10月、設立からわずか1年半後にyoutubeはGoogleに買収されました。買収価格は16億5000万ドルでした。 Googleによる買収の時点でyoutubeは、1日1億アクセスと6万5000本の動画投稿を集める巨大サイトに成長していました。 このような急成長を遂げたyoutubeは、どのようにして著作権に関する問題を回避してきたのでしょうか。
急成長の背景 投稿者自身のビデオアップロードは違法ではない?!
同社が提供するサービスは、動画の投稿です。サービスのコンセプトは、誰でも自分の撮った動画を投稿でき、誰でもその投稿された動画を観ることができる、というものです。アマチュアビデオは投稿者自身の著作物ですので、これをyoutubeにアップロードすることに何ら著作権侵害はありません。
しかし、youtubeが急成長したのは、アマチュアビデオのためではありません。
youtubeで人気の動画は、映画やテレビ番組など違法にアップロードされた動画がほとんどです。映画やテレビ番組等の違法アップロードは、言うまでもなく著作権侵害に該当します。youtubeも、現在に至るまで著作権の問題に直面してこなかったわけではありません。
youtubeと著作権紛争(削除請求)
2006年2月、youtubeはアメリカの大手放送局NBCから、著作権侵害を理由に動画の削除を請求されました。 この事件をはじめとして、youtubeに対しては様々な著作者及び著作権管理団体から動画の削除を請求されています。日本においても、そのような請求が多数なされているようです。
youtubeはアマチュアビデオを投稿することが建前となっていますので、違法コンテンツの削除には基本的に応じています。
サイトに対するアクセス数を増加させるため、人気のある違法コンテンツを放置する動画共有サイトもあるなか、このような対応をするyoutubeは比較的誠実なサイトであるといえます。
youtubeと著作権紛争(損害賠償請求) DMCAにより、削除請求に応じれば免責される?!
2006年7月、youtubeはあるジャーナリストから損害賠償を求める訴訟を提起されました。
その主張の内容は、ジャーナリストが撮影した動画がyoutubeに無断でアップロードされているところ、youtubeは著作権を侵害する違法なコンテンツによって利益を得ているのだから、youtubeは著作権侵害による損害を賠償する義務がある、とするものです。
これに対し、youtubeは、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の免責規定の適用により免責されるとの反論をしています。 DMCAの免責規定は、日本の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)に規定するものとほぼ同じものです。すなわち、違法なコンテンツに関しては著作権から削除の申し出があった場合、これに応じて削除すればサイト運営者は原則として著作権者に対し責任を負わないとするものです。
この事件は未だ決着がついていません。 また、2007年3月、youtubeはアメリカのメディアグループViacomから損害賠償を求める訴訟を提起されました。 この事件の主張内容も、上記ジャーナリストの事件とほぼ同様です。 youtubeは、この事件に関してもDMCAの免責規定の適用により免責されるとの反論をしています。 その後の2010年6月、ニューヨーク地裁はyoutubeの反論を認めました。すなわち、DMCAの免責規定によりyoutubeは免責されるとしたのです。 しかし、Viacomはこの判決に対して不服を申し立て、事件は控訴審で審理されることになりました。 そして、2012年4月、控訴審は一部地裁の判断を否定し、事件を差し戻す判決をしました。 差戻審は現在も継続しています。
その他の著作権対応 楽曲を演奏した動画をアップするのはOKか?!
2008年10月、youtubeは日本の日本音楽著作権管理団体であるJASRACとの間で、JASRAC管理楽曲を利用できる包括契約を締結しました。
これにより、youtubeユーザーがJASRAC管理楽曲を演奏したり、歌ったりした動画をyoutubeに投稿できることになりました。ただ、依然としてCD音源やプロモーションビデオをそのまま投稿することはできません。また、youtubeは違法コンテンツに該当するかどうかの判断を自動で行うツールも採用しているようです。
コンテンツビジネスの成長と著作権 日本でコンテンツビジネスを行う際の注意点
youtubeと著作権をめぐる訴訟は現在も進行中ですが、youtubeが著作権に阻まれず成長を遂げたのはやはり権利者からの削除請求に速やかに対応してきたことが大きいと思われます。 著作権侵害があった場合、権利者から請求されうるのは差止請求と損害賠償請求です。youtubeは差止請求については削除に応じることで、損害賠償請求についてはDMCAの免責規定により回避してきました。DMCAの免責規定の適用を受けるためには削除請求に応じることが重要な要素となっています。
日本においても、プロバイダ責任制限法によりDMCAと同様の免責が規定されています。 youtubeは、その他にも著作権侵害の対策を行っていますが、日本においても電子書籍、レビューサイト、コンテンツのプラットフォーム等のビジネス行う場合、まずは権利者からの削除請求には速やかに応じることが、著作権でつまずかないための重要な要素になるように思われます。
今後、日本において電子書籍、レビューサイト、コンテンツのプラットフォーム等のビジネスを立ち上げる際には、事前・事後の双方において経営戦略の一部に法務戦略の視点を組み込んで展開していくべきでしょう。
【執筆者】 弁護士 渡辺泰央
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。