今月より新卒採用が本格スタートということで、新卒でベンチャーキャピタルに入社するというキャリアについて取り上げてみようと思います。
ベンチャーキャピタリストという仕事は、将来の大きな成長性を秘めた企業をいち早く見つけ、そこに投資し、世の中を変えるサービスを生み出していくという魅力ある職業です。一方で、企業経営やビジネスの起ち上げに精通し、深い知識や豊富な経験、幅広い人脈を活かして投資先企業の成長をドライブさせるという高度な仕事でもあります。
そのため、新卒でベンチャーキャピタルに入社するとなると賛否も両論あるのですが、これに関して、以下のふたつの論点から解説してみようと思います。
- 新卒でベンチャーキャピタルの仕事が務まるのか
- どのようなキャリアパスでベンチャーキャピタリストになるのか
なお、私個人の意見としては、もし、新卒でベンチャーキャピタルに入るチャンスがあり、かつ、ベンチャーキャピタリストという仕事に強い情熱を持っているのであれば、どちらかというとベンチャーキャピタルに入社しておいた方がいいのかなと思っていますので、そういったことも踏まえて述べてみます。
新卒でベンチャーキャピタリストの仕事が務まるのか
新卒でベンチャーキャピタルに入社するということに対して、否定的な意見として挙がる代表的なものが
「ベンチャーキャピタリストは新卒に務まる仕事ではない」
「新卒だとベンチャーキャピタリストとしてのバリューを出せない」
という意見だと思います。
一理あると思いますし、まさにそのとおりであるとも思います。
企業経営どころかビジネスのいろはも知らない新卒キャピタリストでは、投資先をバリューアップするどころか、投資すべき企業を見つけることすら簡単ではありません。
【新卒としてのバリューの出し方】
一方で、新卒なりにバリューを出す方法がないわけではありません。
これに関しては、Skyland Venturesの木下さんが、彼のブログにて語ってくれていますので、お時間のある方はぜひ読んで頂きたいのですが、簡単にまとめると「起業家との共通言語を持つことが重要。それは必ずしも経営の話題だけではない」「若手キャピタリストには、若手なりの戦い方、バリューの出し方がある」ということです。
新卒でベンチャーキャピタルに入るべきか否か(黄金の鐘を鳴らせ)
これは新卒でベンチャーキャピタルに入社し、26歳で自身のベンチャーキャピタルを起ち上げた木下さんだからこそ説得力を持つ意見だと思います。
ちょっと話がそれますが、この木下さんのブログを読んでみて改めて素晴らしいと思うのが、彼は今年、Morning Pitchというスタートアップ向けのイベントを起ち上げ、このブログの通り、スタートアップ業界ならびにベンチャーキャピタル業界に新たな価値を生み出していることです。
Morning Pitchは、起ち上げ1年も経たずして、多くの大企業やWBS、日経新聞という有名メディアが見学や取材に訪れるイベントとなり、そこをきっかけにブレイクしたり、大企業との提携を実現したりするスタートアップが出てきています。
ベンチャーキャピタル業界に新たな風を吹かせた点は、「若いベンチャーキャピタリストではバリューを発揮できない」という意見を見事に覆す一例だと思います。
【組織や周囲の人間の力を借りる】
ベンチャーキャピタリストという仕事は個人の能力に大きく依存する職業ではありますが、自分自身が未熟でも、自分の所属する組織や周囲の人達を活用するということもできます。
新卒で入社するベンチャーキャピタルの規模にもよりますが、自分自身が力不足でも諸先輩方から知恵を借りることはできますし、所属するベンチャーキャピタルのネットワークを使えば取引先や提携先を紹介できるかもしれません。(例えば、ジャフコであれば 数百~数千の投資先や旧投資先があるわけです。)
もちろん、先輩や所属する企業に動いてもらうためにもそれだけの納得性や実力、人間的魅力、情熱などが必要であったりもしますし、周囲の力を借りてもなお、新卒キャピタリストが提供できるバリューにはある程度の限界もあるとは思います。ただ、たとえ新卒でも工夫や努力の余地は十分にあるのではないかと思います。
【新卒でベンチャーキャピタリストになったからといって、一流になれないわけではない】
また、「新卒でベンチャーキャピタルに入社したらすぐにバリューを発揮できないから、将来、一流のキャピタリストになれない」のでしょうか?もちろん決してそうではありません。
例えば、インキュベイトファンドの赤浦さんや日本テクノロジーベンチャーパートナーズの村口さん、クックパッドの穐田さんなど、新卒(いずれもジャフコ)からキャリアを積んで独立し、日本でも有数のベンチャーキャピタリストとなっておられる方々もいます。また、若手~中堅のキャピタリストにもベンチャー投資の最前線で活躍している新卒出身キャピタリストもいますし、逆に、事業会社からベンチャーキャピタルに転身して活躍されている人もいます。
重要なのは新卒の時にバリューを発揮できそうかではなく、一流のベンチャーキャピタリストになるためにその後どのようなキャリアを歩んでいくかではないでしょうか。もちろん、ビジネスの世界では新卒といえども、バリューを出すべきですし、出さなければ業界で生き残っていくことはできません。けれども、もし、新卒で力不足を感じたら必要なスキルや実力を付けられるように頑張ればいいですし、新卒で何年かベンチャーキャピタルに勤めた後に、(高い実績を出していたとしても)さらに見識を深めるために、例えば事業会社への転職をはさんでビジネス経験を積むというのもありだと思います。
そもそも新卒が即戦力としてすぐに実力を発揮できない仕事は世の中にはたくさんありますので、「新卒ではうまくやれないから」という意見を気にしすぎる必要はないのかなとも思います。
どのようなキャリアパスでベンチャーキャピタリストになるのか
ここで、私自身の専門分野(財務・会計分野を専門に10年ほどキャリアアドバイザーをしていました)からの意見も述べておこうと思います。
それは日本では中途でベンチャーキャピタリストになるのは狭き門であるということです。
【中途でベンチャーキャピタリストになるのは簡単ではない】
もし、あなたのキャリアにおける目標が「一流のベンチャーキャピタリストになる」ということである場合、スキルや経験だけを考えると、新卒のキャリアをベンチャーキャピタルから始めるのか、事業会社から始めるのかということに正解はなく、どちらから始めるのもありだと思います。
新卒から叩き上げのベンチャーキャピタリストとして経験を積んでいくのもありですし、事業会社で豊富な経験を積んだ後、そのスキルを活かし、投資先を支援していくのもありでしょう。
ただ、事業会社からキャリアを始めた場合、ベンチャーキャピタリストに転職するのは簡単ではないということは意識しておかなければなりません。
日本において中途でベンチャーキャピタリストになることを考えた際、
- ベンチャーキャピタルに転職する
- 事業会社や金融機関などに入社してグループのベンチャーキャピタルに異動する
という選択肢があります。(厳密には、起業家として成功して、豊富な資金を元にベンチャーキャピタルを起ち上げる、エンジェル投資家になるといった選択肢もありますが、ちょっと話が違ってくるのでここでは取り上げません。)
1に関しては、転職市場にはベンチャーキャピタルの求人が少ないというネックがあります。ベンチャーキャピタルの多くは大部分が少数精鋭で運営されており、人材を募集する機会もあまり多くありません。
実際、ベンチャーキャピタルの中途採用で評価されるためには、事業会社において事業や企業を大きく成長させた経験や金融機関(投資銀行などコーポレートファイナンス関連だとベター)での経験、もしくは、公認会計士のような資格(かつ、ベンチャー支援などの経験)が必要でもあります。
さらに、そう言った経験や資格があったとしても無条件で採用されるわけでもなく(特に金融マンや公認会計士は意外と必要とされていない)、いずれの経験を持っていたとしてもベンチャーキャピタルへの転職を実現できる可能性は決して高くはありません。(あえて言うなれば、イケてる急成長ベンチャー企業やビジネスの世界で評価の高い有名企業などで新規事業や子会社を大きく成長させた経験者でファイナンスに関しても理解のある人材などが最も評価されやすい感じでしょうか)
また、2の「事業会社や金融機関に入社してグループのベンチャーキャピタルに異動する」ということに関しても、日本では総合職採用が一般的であり、新卒の希望が通る企業は少なく、また、ベンチャーキャピタル部門の人員も少ない企業が多いですので、異動するにしても狭き門であると言えます。
そういった点を考慮すると、「とりあえず新卒でどこかの会社に入って、中途でベンチャーキャピタルに転職・異動します」というのは、不確定要素の多いキャリアパスと言えます。
そのため、もし、あなたがベンチャーキャピタリストを目指しており、ベンチャーキャピタルから内定を貰っているのであれば、ひとまずはそのベンチャーキャピタルに入社しておいたほうが良いかもれません。
ただし、将来的に一流のベンチャーキャピタリストになるためには事業会社からキャリアをスタートするほうが良いかもしれませんし、どんなベンチャーキャピタルや事業会社から内定を貰っているかによっても選択は異なってきますので、最終的にはケースバイケースで考える必要はあります。
と、ケースバイケースと言ってしまうと元も子もないですが、いずれにせよキャリアの選択に絶対的な正解はなく、やってみないとわかりませんので、いろんな人の話を聞いて納得の行く選択をするのが良いでしょう。
※本記事はWISE ALLIANCE Inc.からの転載記事です。