「KDP」という言葉をご存知でしょうか?
これは、アマゾン社が提供する電子書籍「Kindle」のサービスで、Kindle ダイレクト・パブリッシングの略称です。
このサービスは、誰もが自分の原稿をKindleの電子書籍にしてインターネットを通じて販売することができるというもので、自分で原稿を用意し、Kindleストアに登録して販売すると、売上から一定のロイヤリティが著者に配当されるという仕組みになっています。
このように、大きな注目を集める電子出版業界ですが実は、出版する者の権利について、著作権法上は大きな問題を抱えています。
そこで今回は、電子出版の著作権法上の課題と現状について説明します。
1.通常の出版の権利関係
本を出版する際には、「著者」と「出版者」という2人の登場人物がいますね。
今回は、「著者」は、文章を執筆した人で、文章の著作権を持っている人を指し、「出版者」は、著者から原稿を受け取り、本として出版する人を指すものとしておきます。
では例えば、著者と出版者が協力して出版した本について海賊版が出回ってしまったとしたらどうなるのでしょうか?
出版者は著作者との契約によって出版権(著作権法79条1項・同80条1項)という権利を設定してもらうことができます。
出版権は、著作物を文書または図画として複製する権利です。
出版者はこの権利によって、海賊版が出回ったら、差止請求を行ったり損害賠償請求を行ったりすることができるようになります。
2.電子出版の権利関係
しかし、電子書籍の出版社も同じかと言えば、そうではありません。
出版権は紙媒体での出版を予定していて、電子書籍を対象としていないからです。
そのため、出版者が出版した電子書籍について、その海賊版がインターネット上でどれだけ流通したとしても、現在の法律の下では、出版権に基づく差止請求や損害賠償請求ができないのです。
3.課題の解決に向けて
これに対して、本を創作した本人である著者は、紙媒体だけでなく、電子書籍に対しても権利を持っています。
したがって、現在の法律でも、著者に関しては電子書籍の海賊版に対して、差止請求や損害賠償請求ができるわけです。
しかし、出版活動は、著者と出版社が協力して行うものです。
今後、電子書籍の市場が一層拡大すれば、出版者の利益を保護しないというわけにはいきません。
そこで数年前から、電子出版について「出版者の権利」が検討されるようになりました。
4.検討の末の4つの選択肢
数年間にわたる検討の末、2013年5月13日、文化庁の文化審議会が、出版者への権利付与についての方策として、以下の4つの選択肢を提示しました。
⑴ 著作隣接権の創設
⑵ 電子書籍に対応した出版権の整備
⑶ 訴権の付与(独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の制度化)
⑷ 契約による対応
では、それぞれについて見てみましょう。
⑴ 著作隣接権の創設
この方法は、新しく法律を整備して、出版者にも、差止請求や損害賠償請求ができる権利を法律によって、自動的に与えようとするものです。
この方法によれば、出版者は何もしなくても新しい権利として、差止請求や損害賠償請求ができるようになります。
出版者に非常にメリットの大きい方法と言えるでしょう。
⑵ 電子書籍に対応した出版権の整備
この方法は、新しく法律を整備して、従来の出版権を拡張し、電子書籍についても出版権が及ぶようにするものです。
先ほどの⑴の方法は、新たな権利を創設するものでしたがこの方法は、従来の権利を拡張する内容になっています。
⑴ほどではありませんが、こちらも出版者の権利を大きく拡大するものです。
⑶ 訴権の付与(独占的ライセンシーへの差止請求権の付与の制度化)
この方法は、新しく法律を整備して、出版社が著者から独占的な使用許諾を受ければ、差止請求や損害賠償請求ができるようにするものです。
上の⑴⑵は、あくまで「出版者の権利」という枠内での問題解決方法でした。
しかし、この方法は、出版物だけの話ではなく、あらゆる著作物に影響が出る可能性があるというところに特徴があります。
⑷ 契約による対応
この方法は、現在に法制度の枠内で、出版社が著者から著作権の譲渡を受けて著者ではなく、出版者が著作権者になるように契約の慣行を変えていこうとするものです。
上記⑴~⑶とは違って、出版者の権利を拡大するわけではなく、現在の法律の枠内で、問題を解決しようとするところに特徴があります。
4つの方法は、上から順に出版者の権利を大きく拡大するものです。
出版社の権利保護を無視できないことからスタートしたこの問題ですが、そればかりを重視して、出版社の権利を極端に大きくしてしまうと、出版者と契約する著者とのバランス関係が崩れてしまいますので、問題はそう簡単に解決することができるものではないわけです。
この問題は、今後一層の市場拡大が見込まれる電子出版業界においてビジネスのあり方を大きく左右する問題です。
今後の動向に期待しつつ、注目していきたいと思います。
【執筆者】 弁護士 藤江大輔
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。