ここ数年に渡って好況が続いてきたIPO市場ですが、今上半期はコロナショックの影響でIPOを延期や中止する企業も複数出ていました。波乱含みのIPO市場において、プレーヤー実績はどのようになっているのでしょうか?
2020年のIPO市場を、
- 上場市場
- 主幹事証券
- 監査法人
- 証券代行
ごとのIPO件数でまとめてみました。
本記事の目次
市場別IPO数ランキング
東証マザーズが8年連続トップ独走
まずは市場別IPO数のランキングです。今年はコロナショックで株価が急落しIPO数が低調な時期があった一方で、IPOの総数は93件となり、2008年以降で最高となるなど激動の1年となりました。
このような中、市場別IPO数ランキングにも変化が見られるのでしょうか。
過去8年間の市場別IPO数ランキング推移表にご注目ください。
市場別IPO数ランキング
市場別IPO数ランキングでは、1位は8年連続で東証マザーズです。また今年はジャスダックが2位に返り咲きました。また、2020年のIPO総数に占めるマザーズのシェアは、67.7%と高いシェアを維持しています。
2019年から2020年にかけて、IPOの総数は7件増加しています。市場別で比較してみると以下のようになっています。
- 東証マザーズ:-1件
- ジャスダック:+8件
- 東証2部:-2件
- 東証1部:+5件
- 名証セントレックス:±0件
- 札証アンビシャス:-1件
- 福証Q-Board:-1件
- 福証:-1件
前年は、ジャスダックのIPO数が少ない一方で東証2部と地方市場が多くなるなど、例年とは異なる動きがありましたが、今年は例年並みに戻ったようです。
来年は、2022年4月の東京証券取引所の再編で、市場変更が行われたり上場基準が厳しくなることを受けて、駆け込み的に上場を目指す企業が増えることが予想されています。このような状況で、上場しやすいマザーズを目指す企業が増えることになりそうです。
主幹事証券別IPO数ランキング
野村證券が首位返り咲き
次に主幹事証券別のIPOランキングを見てみましょう。
主幹事証券別IPO数ランキング
※主幹事証券が複数ある場合は、各証券会社に1件ずつ集計しています。
主幹事証券別IPO数ランキングは、野村證券が1年ぶりに首位に返り咲きました。2位はみずほ証券で、1位の野村證券と僅差になっています。
【主幹事証券上位5社のIPO件数の推移】
2013年と2020年を比較すると、IPO総数は54件から93件へ1.7倍強に増加しています。他方8年間の推移を見ると、野村證券は件数がやや抑えられつつある一方で、みずほ証券、SMBC日興証券、SBI証券、大和証券の4社は横ばい~微増で件数を増やしており、上位5社で混戦状態になっています。
最近ではネット証券を利用する個人投資家も増えており、個人投資家に人気のIPO株を手掛けようと、証券会社各社がIPO事業に注力しているとも伝えられています。IPO企業にとっては、大手証券会社、メガバンク系、ネット証券それぞれの特色や強みを比較し、自社に最適な主幹事証券会社を選べる環境になってきているのではないでしょうか。
監査法人別IPO数ランキング
EY新日本が3年連続の首位に。トーマツは前年の半分以下に
次に監査法人別にIPO件数を比較してみます。
監査法人別IPO数ランキング
※2018年7月2日に太陽監査法人と優成監査法人が合併しています。2018年のIPOに関して、優成監査法人のIPO1件は2018年末時点の存続法人である太陽監査法人に含めて集計しています。
IPO件数では、EY新日本監査法人が一昨年から3年連続で首位をキープしています。続くあずさ監査法人も前年と比べて増加しており、昨年3位から2位に浮上しました。一方、昨年2位の監査法人トーマツは、半分以下に件数を減らし4位になりました。
また、太陽監査法人がトーマツを抜いて3位となり、IPO監査における勢力図が大きく変わった年となっています。
監査法人の規模別で件数はどう変動したのか
2019年から2020年にかけて、四大監査法人の実績に関しては、
-
- EY新日本監査法人:27件(対前年̟+5件)
- あずさ監査法人:22件(対前年+3件)
- 監査法人トーマツ:10件(対前年-11件)
- PwCあらた監査法人:3件(対前年-2件)
と合計で5件のマイナスとなっています。
また、準大手監査法人の実績を前年と比較してみると、
- 太陽監査法人:11件(対前年+3件)
- 仰星監査法人:5件(対前年+3件)
- BDO三優監査法人:4件(対前年±0件)
- 東陽監査法人:1件(対前年+1件)
- PwC京都監査法人:1件(対前年±0件)
と7件のプラスとなっております。
中小監査法人に関しては、前年と比べて5件のプラスになっています。
- 監査法人A&Aパートナーズ:1件(対前年-1件)
- 海南監査法人:1件(対前年±0件)
- ひびき監査法人:2件(対前年+2件)
- 永和監査法人:1件(対前年+1件)
- 應和監査法人:1件(対前年+1件)
- 興亜監査法人:1件(対前年+1件)
- 監査法人 東海会計社:1件(対前年+1件)
- 双葉監査法人:1件(対前年+1件)
- 大有監査法人:0件(対前年-1件)
2020年は準大手監査法人だけではなく、中小監査法人もIPO件数を増やしており、IPO監査が中小監査法人まで広がっている様子が伺われます。
近年は、IPO監査難民の問題が深刻化しています。この問題は、監査法人側の事情(監査品質の厳格化、人員不足などによる受注控え)以外にも、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達が増えたことに伴い、そのEXITのためにIPOを目指す企業が増えていることも背景にあります。
このままの流れでIPOを希望する企業が増加すれば、準大手監査法人や中小監査法人に依頼するケースがさらに増えていくことも予想されます。
証券代行別IPO数ランキング
三菱UFJ信託銀行2017年以来の単独トップ
次に、証券代行別IPO数ランキングをご紹介します。
証券代行別IPO数ランキング
証券代行は、2年ぶりに三菱UFJ信託銀行が単独1位となりました。
証券代行に関しては、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行の2強をみずほ信託銀行が追う形となっています。8年間の累計代行率を見ると、1位が三菱UFJ信託銀行43.46%、2位が三井住友信託銀行32.03%の順となっています。
以上、2020年のIPOランキングをお届けしました。
今年は8年間で最高のIPO数を達成しましたが、来年は、2020年にIPOを延期した企業が改めて上場を目指すため、IPO数が100社を超えるかもしれないとも予測されています。
IPO市場が拡大する中、2021年のIPOマーケットやランキングはどのような結果になるでしょうか?継続してウォッチしていきますので、ご期待ください。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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<本記事の補足>
複数の証券取引所に同時上場の場合には、市場規模が大きいもののみカウント。東京証券取引所>名古屋証券取引所>札幌証券取引所>福岡証券取引所の順で優先しております。具体的には以下の銘柄です。
【上場日、社名、集計した市場(集計対象外とした市場)】2013/3/27、タマホーム、東証1部(福証)/2014/12/24、ヨシックス、ジャスダック(名証2部)/2014/5/22、東武住販、ジャスダック(福証Q-board)/2015/3/26、プラッツ、東証マザーズ(福証Q-board)/2015/6/25、メニコン、東証1部(名証1部)/2016/3/9、プラス、東証マザーズ(名証セントレックス)/2016/6/15、ホープ、東証マザーズ(福証Q-board)/2016/6/29、コメダホールディングス、東証1部(名証1部)/2016/10/25、九州旅客鉄道、東証1部(福証)/2016/11/22、WASHハウス、東証マザーズ(福証Q-board)/2017/2/10、安江工務店、ジャスダック(名証2部)/2017/3/23、グリーンズ、東証2部(名証2部)/2017/8/3、シェアリングテクノロジー、東証マザーズ(名証セントレックス)/2017/12/25、ABホテル、ジャスダック(名証2部)/2018/12/21、ポート、東証マザーズ(福証Q-board)/2018/12/21、テノ.ホールディングス、東証マザーズ(福証Q-board)/2019/2/27、東海ソフト、東証2部(名証2部)/2019/4/3、東名、東証マザーズ(名証セントレックス)/2019/10/18、浜木綿、ジャスダック(名証2部)/2019/10/18、ワシントンホテル、東証2部(名証2部)
<免責事項>
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