改正著作権法の施行
「クリック1つで逮捕される」「YouTubeやニコニコ動画は見るだけでアウト」2012年10月1日が近づくにつれ、このような不安をあおる記事がネット上で増えてきました。
言うまでもなく、これらは違法ダウンロードの刑事罰化を含む著作権法の改正に関するものです。この改正著作権法が施行されたのは、2012年10月1日のことです。世間の大きな批判にあいながらも改正著作権法は施行されてしまいました。
果たして、今回の著作権法の改正により「クリック1つで逮捕」「動画サイトは見るだけでアウト」といった一億総被疑者時代とも呼ばれる時代は到来するのでしょうか。
どのようなダウンロードに刑事罰が課せられるのか
上記のような不安をあおる記事や書き込みだけを見てもいたずらに不安が膨らむばかりです。今回の改正内容をしっかり整理してみましょう。
改正著作権法119条3項が、今回の違法ダウンロード刑事罰化についての条文です。同条には、以下のとおり規定されています(興味のある人以外は読まなくて結構です)。
「第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となっているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
条文のままだと非常に分かりづらいですね。これを分かりやすく要件整理すると、以下のとおりになります。
- 私的使用目的で
- 「有償著作物等」(録音され、又は録画されたもの)について
- 著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行う
- デジタル方式の録音又は録画を
- 自らその事実を知りながら行い
- 著作権又は著作隣接権を侵害した者は
- 2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金のどちらか又は両方 が科せられる
これでもまだ理解できる人は少ないと思います。各要件を1つずつ説明していきましょう。大事なところは赤字にしてありますのでそこだけ読んでも大丈夫です。
1.私的使用目的で
これはあまり意味がありません。私的使用目的以外でのダウンロードはもともと違法です。
2.「有償著作物等」(録音され、又は録画されたもの)について
「有償」のものですので、CDやDVD、有料動画などお金を払って購入できるものがこれにあたります。ダウンロードが刑事罰化の対象になるのは音楽と動画です。画像のダウンロードは刑事罰の対象になりません。テレビ番組は無償なのでOKです。ただし、DVD化等がされていると、たとえテレビで放送されたもの(CMや提供が入っているもの)の録画でも、これをダウンロードすることはアウトになります。
3.著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行う
動画サイトやアップローダなど、誰でもダウンロードできるようなサイトからダウンロードすることがアウトです。友達のメールに添付されていた等ならOKです。ただ、「配信要請」→「メールでデータが送られてくる」というような事業をやっているところからデータを取得するのはメール添付でもアウトになります。
4.デジタル方式の録音又は録画を
HDDやCD-R、DVD-R等固定物に複製することがアウトになります。
5.自らその事実を知りながら行い
市販のアニメや音楽は、普通は無料でダウンロードできることはないでしょうから、これらをダウンロードして「違法とは知らなかった」はまず認められません。
6.著作権又は著作隣接権を侵害した者は
上記の1~5を行えば基本的に「侵害した者」になります。著作権法では、著作権侵害行為にあたるもののうち、一定の場合には著作権侵害にはあたらないという例外規定がありますが、この6の要件はそのような例外規定を念頭に置いていると思われます。
7.2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金
刑罰ももちろん恐ろしいものですが、刑事罰が課せられるということは、警察から逮捕・勾留や、捜索差押を受けることがある、ということを意味します。この時点ですでに大変恐ろしいものです。逮捕・勾留は最大で23日間もの間留置施設に収容されることになります。また、捜索差押がなされることは、警察が自宅にやってきてパソコンなどの私物を押収しにくることを意味します。
以上が今回の違法ダウンロード刑事罰化の内容です。ある程度、セーフとアウトの基準や、違反した場合にどうなるかといった点をつかんでいただけたら嬉しいです。
次回は、動画サイトを見ただけで逮捕されるかという点など実際に不安が大きいと思われる部分について詳しい解説をしていきたいと思います。
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。