本をどこでも手軽に読めるツールとして、電子書籍が注目されています。もっとも、電子書籍のもとになる「本」は、作家さんなど著作者の権利(「著作権」)を含む著作物です。そのため、多くの場合、本を勝手に電子化することは許されません。
本を電子化する際にはどのような点に気をつけるべきなのでしょうか。
1. 著作権法上の権利と保護期間
(1). 問題となる著作権法上の権利
法律上、著作物には、著作者財産権(著作権)と著作者人格権という二つの権利が認められています。
電子書籍との関係で例をあげてみましょう。
著作者財産権(著作権)には、コピーをする権利(複製権)が含まれます。
電子書籍は、もとになる本の文章を全てコピーする場合がほとんどですから、権利者の許可なく行えば、この複製権の侵害にあたります。
著作者人格権には、作者の認めないような方法で、もとの作品を修正することを禁止する権利(同一性保持権)が含まれます。
例えば、電子書籍化する場合に、勝手に文章を削除したり、もとの作品にない注釈を加えたりすれば、この同一性保持権の侵害にあたってしまいます。
このような権利の侵害をしないためには、基本的には権利者の許諾を得ることが必要となります。
(2). 権利の保護期間
先ほど解説したように、権利者に無断で電子書籍化すると、著作権法上の権利を侵害してしまうおそれがあります。もっとも、権利が保護される期間には制限があります。
- 著作者財産権:著作者(作家など)の死後50年間が経過するまで
- 著作者人格権:著作者が死亡するまで
この保護期間を経過した作品については、一部の例外をのぞき、権利者の許可がなくとも電子書籍化できることになります。
2. 電子書籍化するときに気をつけること
(1). 保護期間の調査
先ほど説明したように、権利の保護期間が経過した本については、一部の例外を除き、権利者の許諾を得ることなく、電子化することができます。
そのため、まずは、電子化したい本について、
- 著作者が生存しているか、
- 既に亡くなっている場合には、没後50年を経過しているか、
を調べる必要があります。
調べる方法としては、例えば、書籍やインターネットで調べるほか、出版社に問い合わせることが考えられます。
(2). 著作者(作家など)が生存している場合
ア. とるべき対応
著作者財産権(本のコピー)については、本人または本人から権利を譲り受けた者に連絡をとり、許諾をもらうことになります。
元の作品に一部修正を加える場合など、著作者人格権の侵害が問題となりうる場合には、著作者本人に連絡をとり、許諾をもらうことになります。
イ. 法的なリスク
許諾を得なかった場合には、以下のようなリスクが考えられます。
(ア). 民事上のリスク
- 電子書籍の販売の差止めの請求
- 違法な電子書籍のデータの削除などの請求
- 損害賠償の請求
(イ). 刑事上のリスク
- 著作者財産権を侵害した場合(ex.勝手にコピー)
・・・10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、またはこの両方
- 著作者人格権を侵害した場合(ex.勝手に文章をカット)
・・・5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、またはこの両方
(3). 著作者の没後50年が経過していない場合
ア. とるべき対応
著作者財産権(ex.本をコピーすること)については、作家の相続人または本人から生前に権利を譲り受けた者に連絡をとり、許諾をもらうことになります。
著作者人格権については相続されません。しかし、法律上、本人が生きていれば人格権の侵害となるような行為は、一部の例外を除き、禁止されています。そのため、元の作品の一部を修正したりする場合には、相続人(基本的に孫まで)から許諾を得ておくのがよいでしょう。相続人などが不明の場合は、文化庁長官の裁定制度を利用することが考えられます。この制度は、必要なリサーチを尽くしても、相続人が発見できない場合などに、権利者から許諾をうけるかわりに、文化庁が許諾を出してくれる制度となっています。
イ. 法的リスク
(ア). 民事上のリスク
- 電子書籍の販売の差止めの請求
- 違法な電子書籍のデータの削除などの請求
- 損害賠償の請求
- 名誉回復のための措置(謝罪広告など)の請求
(イ). 刑事上のリスク
- 著作者財産権を侵害した場合(ex.勝手にコピー)
・・・10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、またはこの両方
- 著作者が生きていれば著作者人格権の侵害にあたるような行為をした場合(ex.勝手に文章をカット)
・・・500万円以下の罰金
(4). 著作者の没後50年が経過している場合
ア. とるべき対応
基本的に、著作者財産権(ex.本の内容をコピーすること)との関係では、権利者の許諾は必要ありません。もっとも、著作者が生きていれば著作者人格権の侵害にあたるような行為が禁止されていることは、死後50年を経過した後であっても変わりません。
そのため、元の作品に修正を加えるような場合には、相続人(基本的には孫まで)から許諾を得ておくのがよいでしょう。
イ. 法的リスク
(ア). 民事上のリスク
- 電子書籍の販売の差止めの請求
- 違法な電子書籍のデータの削除などの請求
- 損害賠償の請求(相続人の権利を侵害したといえる場合)
- 名誉回復のための措置(謝罪広告など)の請求
(イ). 刑事上のリスク
- 著作者が生きていれば著作者人格権の侵害にあたるような行為をした場合(ex.勝手に文章をカット)
・・・500万円以下の罰金
(5). 著作者の没年がわからない場合
・・・文化庁長官の裁定制度を利用して、許可をうけることが考えられます。
今回ご説明したように、書籍の電子化に必要な手続きは
- 著作者(作家など)がご存命かどうか、
- 著作者が亡くなられてから何年たっているか、
によって大きく変わってきます。
ニーズの高い電子書籍・・・ その実現には、権利の保護期間を意識した対応が不可欠になります。
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。