今回は、実際に不安が大きいと思われる部分について詳しく解説していきたいと思います。
YouTubeやニコニコ動画は見るだけで逮捕されるのか
この部分についてが最も不安の大きいところだと思います。
Part.1で違法ダウンロードに対する刑事罰の要件を整理しましたが、この部分はそのうちの「④デジタル方式の録音又は録画」に関係する問題です。
この④の要件については、固定物に複製することがアウトだと説明しました。
動画を見るだけであれば、CD-Rなどに複製しないので④の要件を満たさず、セーフのようにも思えます。
しかし、少しコンピュータに詳しい人であれば動画を見るだけでも自分のところにあるパソコンにデータが複製されることがあることを知っているでしょう。ハードディスクに「キャッシュ」として保存される場合です。この「キャッシュ」があることを理由に、④の要件が満たされてしまうのでしょうか。
この点については、文化庁の以下の公式見解が述べられています。
「 … (キャッシュ)に関しては、第47条の8(電子計算機における著作物利用に伴う複製)の規定が適用されることにより著作権侵害には該当せず、「著作権又は著作隣接権を侵害した」という要件を満たしません。」
(URL:http://www.bunka.go.jp/chosakuken/download_qa/pdf/dl_qa_ver2.pdf)
つまり、④の要件を満たすが、著作権法47条の8の規定により「⑥著作権又は著作隣接権を侵害した者」の要件を満たさず、したがって刑事罰は課せられないということになります。
著作権法47条の8は、非常に簡単にいえば、パソコンが情報処理を円滑・効率的に行うためにデータを複製する場合に、そのような複製は著作権侵害にあたらないとする規定です。
文化庁の公式見解に従えば、「動画サイトを見るだけで逮捕される」といったことは起こらないことになります。
ただ、これはあくまで行政の見解であって、法律できちんと「セーフ」と規定していない以上、裁判所がこれに従う義務はありません。
また、文化庁は、
「処罰対象にならなくとも、違法ファイルの利用自体が好ましくない」
ともしています。
したがって、裁判所が
「動画サイトを見ただけで刑事罰を課す」
と判断する可能性は否定できないのです。
刑事罰が課されることの現実味
とはいえ、文化庁の公式見解が行政の見解に過ぎないといっても裁判所の判断に与える事実上の影響は小さくないでしょう。
また、警察などの捜査機関も働ける人は限られていますから国民全員のサイト閲覧状況を監視して、動画サイトを見た者は直ちに逮捕するということは不可能です。
さらに、著作権侵害に関する罪は親告罪です。すなわち、著作者の告訴がなければ刑事罰は課されません。
このように、違法ダウンロード刑事罰化といっても
「動画サイトを見るだけで」実際に逮捕されたり刑事罰が課されたりするには
相当のハードルがあります。
動画サイトを見るだけで逮捕されるとなればそれこそ1億総被疑者時代の到来です。立法担当者も、そのようなことは望んでいないでしょう。
「違法ファイルの利用自体が好ましくない」とした文化庁も、「視聴だけであれば違法にアップロードされた動画を見てもOK」とはおおっぴらにいえないという立場からこのような発表をしたのかもしれません。
まとめ
以上みてきたとおり、今回の違法ダウンロード刑事罰化の規定は非常に微妙です。
ただ、ファイル共有ソフト等を使って動画や音楽をダウンロードすることは論外ですが、インターネットが普及してから現在までに形成されたネット使用の常識を超えなければ逮捕される可能性は低いと思われます。
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。