「うちがお金を出したのに、うちに著作権はないんですか?」
著作権の世界では、よく耳にする言葉です。
企業がITサービスを展開したいとき、多くの企業はソフトウェアの開発を外部のディベロッパーに委託します。
では、その場合の著作権は、どちらに帰属するのでしょうか?
企業でしょうか?ディベロッパーでしょうか?
「お金を払って注文しているのだから、著作権は当然委託した企業のものだ。」
と思っていませんか?
もしそう考えているなら、それはとても危険な間違いです。
そこで今回は、ソフトウェアの制作を委託した場合の著作権について説明します。
1.著作権は、誰に、どうやって発生する?
著作権は、権利が発生するための法的な手続きは一切不要で、著作者が著作物を創作すると同時に発生します(無方式主義・著作権法17条2項)。
したがって著作者=著作権者となるのが原則です。
言葉にすると当たり前のことのように感じるかもしれませんが、実は、このことはあまり十分に理解されていません。
著作者=著作権者となるということは、お金を払ったに過ぎない人は著作権者とはならないことを意味します。
つまり法律は、「誰がお金を払ったか?」とは無関係に権利者を決めているのです。
したがって、著作権は、あくまでディベロッパー側に帰属するのが原則で、委託元企業には、著作権が帰属しないことになります。
もし委託元企業が著作権を取得したいと考えるなら、ディベロッパーに制作を委託する際に、「制作したソフトウェアについての著作権を譲り受ける」
ということを、契約書などで約束しておくことが必要です。
2.著作者人格権は譲り受けることができない!?
ところで、著作権の中には、「著作者人格権」(著作権法18条~20条)と呼ばれる権利があります。
この著作者人格権は、著作者だけが持っている権利で、譲渡したり、相続したりすることができません(著作権法59条)。
したがって、企業がいくら契約書で著作権を譲り受けると約束したとしても、この著作者人格権だけはディベロッパー側に残ってしまうため、委託元企業がソフトウェアの利用について制約を受けてしまうことになります。
そこで、もし企業がディベロッパーからの制約を受けたくないなら、「ディベロッパーは、著作者人格権を行使しない」という約束(著作者人格権不行使特約)をしておくことが必要になります。
この著作者人格権不行使特約が有効かどうかについては議論がありますが、著作者人格不行使特約を有効だと判断した裁判例もあります。
(東京地裁平成13年7月2日判決 宇宙戦艦ヤマト事件)
したがって、ディベロッパーからの制約を受けたくないならば、必ず契約書に著作者人格権不行使特約を入れておくべきでしょう。
3.企業が著作者人格権も手に入れるには!?
では、委託元企業は著作者人格権を絶対に手に入れられないのでしょうか?
実は、そうでもありません。
著作権法には、「職務著作」(著作権法15条)という制度があります。
職務著作の詳細については、以前の記事
を見ていただければと思いますが、具体的には、委託元企業は、
(1) ディベロッパー側の社員を一時的に自社に出向させるなどした上で
(2) 出向したディベロッパー側の社員に対し、開発についての具体的な指揮・命令を行い、ソフトウェアを職務上製作させる
などの工夫をすることによって、完成したソフトウェアについて、著作権だけでなく、著作者人格権も、取得することが可能なります。
4.まとめ
このように、著作権の帰属については「お金を払ったかどうか」ではなくて、「どのような約束をしていたか」が重要です。
これからソフトウェア開発を委託しようとする企業の方はディベロッパーとどんな約束をすべきかを改めて確認するべきかも知れません。
逆に、ソフトウェア開発を受託するディベロッパーの方も、後で委託元企業とトラブルになることを避けるためにも、委託元企業とどんな約束をするかを確認してみるとよいかも知れません。
【執筆者】 弁護士 藤江大輔
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。