最近は、遠方に住んでいて通学が困難な生徒や、不登校になってしまった生徒に対して、インターネットを使った授業や試験を取り入れることを検討している学校が増えています。
なかなか学校に通学することが難しい生徒に対してインターネットで授業や試験を行うことができれば、生徒にとって有用であるばかりか、学校運営のコストダウンにもつながります。
しかし、インターネットを使った遠隔授業や遠隔試験には、著作権を侵害してしまうおそれがありますので、今回は、遠隔授業や遠隔試験で注意すべきポイントについて説明していきたいと思います。
第1 授業や試験で使う著作物
学校の授業や入学試験では、例えば有名な小説の一節をコピーして生徒に配ったり、虫食い問題にして試験に使ったりすることが、通常行われています。小説の中の表現は、著作権で保護されている著作物であることが多いので、本来であれば勝手にコピーして配ったり、勝手に一部を虫食いに変えてしまったりしてはいけないはずです。
しかし、著作権法は、学校などの非営利の教育機関が、授業や入学試験のような教育のために必要な範囲で、既に公表されている著作物をコピーしたり、一部を改変することは、著作権を侵害しないと定めています(著作権法35条1項 学校その他の教育機関における複製)。
第2 遠隔授業で使う著作物
学校教育のために著作物を利用することが許されているのなら、遠隔授業も当然に認められると思われるかも知れませんが、著作権法では、遠隔授業での著作物の利用は、次のような場合にしか許されないことになっています(著作権法第35条2項等)。
① 非営利目的の教育機関の授業であること
この点は直接授業を行う場合も同じですが、著作権法は、営利目的の授業(予備校など)で著作物を使うことは許容していません。
② 公表された著作物を利用すること
この点も直接授業を行う場合と同じですが、著作権法は、まだ世間に公表されていない著作物を使うことは許容していません。
③ 授業を直接受ける生徒と、授業を遠隔で受ける生徒がどちらもいること
たとえば、どこかの個室で先生が一人で授業を行っていて、生徒全員がインターネットで授業を受けるような場合は、著作権の利用が許されないことになっています。
④ 授業を直接受ける生徒と、授業を遠隔で受ける生徒が同時にいること
この点は注意する必要がありますが、たとえば、欠席した生徒に対して、後でいつでも授業を見られるようにデータを保存して送信しておくというようなことは、著作権法は許容していません。
⑤ その授業を受ける生徒だけが見ることができること
このため、インターネットで授業を行う場合、アカウント管理やパスワード管理しておかなければならないことになっています。
なお、通常の授業であっても遠隔授業であっても、あくまで授業に必要な範囲で著作物を利用することが許されているだけだということにも注意して下さい。
第3 遠隔試験で使う著作物
遠隔授業には上記のような色々な制約がありましたが、遠隔試験で公表された著作物を利用する場合は、少し制約も緩やかになっています。
具体的には、営利目的の団体での試験でも構いませんし(ただし、この場合は著作物の使用料の支払いは必要です。)、試験を直接受ける生徒がいなくて、遠隔で受験する生徒だけという試験であってもかまいません。
著作権法は著作物の無断での利用を禁じる法律ですが、試験問題に関して著作権者の許しをもらってしまうと試験問題が漏えいしてしまうという問題があることが考慮されていると考えられます。(東京高裁平成12年9月11日決定)
しかし、次の点には注意が必要です。
試験問題では、問題文にするために文章の一部を切り取ったり、文章の一部を虫食いにしたりすることが行われますが、遠隔試験の場合にはそれが許されないことになっています。
したがって、遠隔試験を行うためには、問題文を自前で作成するなど、実際上は他人の著作権を利用しない形でしか試験を行うことができないのが現状です。
通信技術の発達により、離れた場所の相手ともやり取りすることが可能となった一方で、それだけ著作権は広く侵害されるリスクを抱えることになりました。
権利を守ることはとても大切なことですが、文化的な財産でもある著作権が、教育の足を引っ張ってしまいかねない現状に対して、新しいアイディアを模索していければと思います。
【執筆者】 弁護士 藤江大輔
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。