モバゲーがGREEに2億3460万円!DeNAはなぜ釣りゲーコンテンツをパクったと判断されたのか?
東京地方裁判所は、2012年2月23日、いわゆる「釣りゲー訴訟」に関して判決を言い渡しました。本判決は、ソーシャルゲームのみならず今後のIT・コンテンツビジネスを行う際に非常に大きな影響を与えると予想されるため、GVA法律事務所は分析を行いました。
法廷の「GREE」 vs 「Mobage(モバゲー)」
東京地方裁判所は、2012年2月23日、「Mobage(モバゲー)」を運営する株式会社ディー・エヌ・エーに対し、以下の判決を言い渡しました。
- 「釣りゲータウン2」の配信を差し止めること
- GREE株式会社に対し、2億3460万円の損害賠償を支払うこと
GREEは、2009年9月、DeNAに対して訴えを提起していました。
その内容は、DeNAの配信する釣りゲームが、GREEが先に配信していた釣りゲームに非常によく似ているというものです。
つまり、DeNAがGREEのゲームを「パクった」という主張が、今回の訴訟の根底にあるものです。
結果的に、コンテンツをパクったDeNAがGREEに2億3460万円も支払うという社会的にも大きなペナルティをくらってしまいました。今回は大企業同士の著作権闘争なので金額が大きいですが、中小企業または個人にとっても他人事ではありません。
事件の経緯
今回の事件の経緯は、以下のようなものでした。
- 2007年5月 GREEが「釣り★スタ」の配信を開始
- 2008年8月 DeNAが「釣りゲータウン」の配信を開始
- DeNAが、その登録者に対して「『釣り★スタ』とどちらが面白いか」などと尋ねるアンケートを実施
- 2009年2月 DeNAが「釣りゲータウン2」の配信を開始
DeNAが最初に配信した「釣りゲータウン」は、GREEの「釣り★スタ」と似ているものではありませんでした。しかし、その後に配信した「釣りゲータウン2」はGREEの「釣り★スタ」とよく似ているものでした。似ているところはたくさんありましたが、特に裁判で争われたのは、以下の魚の引き寄せ画面です。
【原告作品】が、「釣り★スタ」の魚の引き寄せ画面で、【被告作品】が、「釣りゲータウン2」の魚の引き寄せ画面です。
いずれのゲームも、プレーヤーが釣り場で魚をヒットさせると、このような画面が表示されます。この画面において、魚は画面上をランダムに動き回ります。そして、円になっている部分でタイミングよくボタンを押せば、魚を釣ることに成功するというものです。
「パクリ=著作権違反」なのか?
「『釣り★スタ』とどちらが面白いか」などを問うアンケートをとっていることや、「釣りゲータウン」が「釣り★スタ」に似ていなかったのに、その続編である「釣りゲータウン2」が非常によく似ていることは否定できない事実です。
これらの事情を考えれば、DeNAが「釣り★スタ」を「参考にした」可能性は高いと考えられます。しかし、「参考にした」可能性が高いことから、直ちに著作権違反が認定されることにはなりません。「参考にした」というだけでは、「テトリス」を参考にしたとされる「ぷよぷよ」も著作権侵害ということになってしまいます。
では、どのような場合が、著作権侵害に該当するのでしょうか。
著作権侵害というためには
著作権法上の複製権侵害であれ、翻案権侵害であれ、著作権侵害が成立するためには
- 依拠性
- 類似性
この2つが必要です。
依拠性とは?
依拠とは「よりどころとすること」ですが、この依拠性は、偶然に同じようなものを作成してしまった場合に、著作権侵害が成立してしまうことを避けるための要件です。
たとえば、音楽はプロからアマチュアまで多数の者が作曲するものです。そして、著作権は、その著作物を作った瞬間から成立するものです。しかし、コードの進行などはある程度決まったものもあります。このとき、同じようなコード進行で同じような音楽が作曲された場合、常に著作権侵害の問題が生じるとなると、作曲家の人たちは安心して音楽を作ることができません。
そのために、この依拠性の要件が必要になります。
今回の訴訟において、裁判所は
- 「釣り★スタ」と類似性があること
- 「釣りゲータウン」の製作された時期は原告作品の製作された時期の約2年後であること
- 被告らは被告作品を製作する際に原告作品の存在及びその内容を知っていたこと
などの理由から、
被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して作成されたものといえ(る)
と認定しています。
類似性とは?
ここでいう類似性は、単純に「似ている」ことをいうのではありません。
判例上、この類似性は「表現上の本質的な特徴を直接感得」できること、を意味するとされています(最高裁平成13年6月28日 江差追分事件参照)。
そして、この要件は
- 共通する部分が「個別具体的な表現」であること
- 共通する部分に「創作性」があること
が認められることによって充足すると考えられています。
「個別具体的な表現」であることが求められるのは、つまり単なる思想やアイデアには著作権は成立しないことを意味しています。
たとえば、「おいしいカレーの作り方」を書いた本がある場合、全く同じカレーの作り方を異なる表現で書いた本が出版されても、それは著作権侵害にはなりません。なぜなら、このようなものまで著作権を認めてしまうと、その「おいしいカレーの作り方」というアイデア自体が著作権によって保護されることになってしまい、他の人は似たようなカレーの作り方を書いた本を出版することができない、あるいは出版をためらってしまう、ということになるからです。これでは、おいしいカレーの作り方が世間に広まらず、そのレシピの改良も滞る結果、カレーの発展が阻害されてしまいます。
また、「創作性」があることが求められるのは、ありふれた表現などには著作権を与えない、ということを意味します。たとえば、「今日はいい天気ですね。」という表現に著作権を認めてしまうと、この挨拶を使える人は一人しかいなくなってしまいます。
このような事態を避けるため、著作権は「創作性」のある表現にのみ成立することになっているのです。
この「創作性」が認められるためには、作者の個性が表現に表れていることが必要とされています。
今回の訴訟で、DeNAは、魚の引き寄せ画面について、海の中を真横から見るアングルや、それに円を重ねること等は、単なる「アイデア」であるか、あるいはゲーム作成者であれば誰でも思いつくありふれた表現であって「創作性」がない、と反論しました。
しかし、東京地裁は
水中に三重の同心円を大きく描き,釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ,魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は,原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり,この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。
として、「釣り★スタ」の魚の引き寄せ画面に創作性を認めました。
そして、DeNAの反論に対しては、
原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点は,単に,「水面上を捨象して水中のみを表示する」,「水中に三重の同心円を表示する」,「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく,「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」,「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」,「魚にどのような動きをさせ」,「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」などの点において多数の選択の幅がある中で,上記の具体的な表現を採用したものであるから,これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない。
また,原告作品が配信される以前にも携帯電話機用釣りゲームは多数配信されていたが,上記共通点をすべて備えたゲームや,原告作品の製作者の個性が強く表れている,水中に三重の同心円を描いて魚影と同心円との位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現しているゲームは一つも存在しなかったと認められることについては,上記認定のとおりである。したがって,上記共通部分が平凡かつありふれたものであって創作性を欠くともいえない。
として、主張を認めませんでした。
これによって、一番初めに書いた判決がDeNAに言い渡されたのです。
判決その後
東京地裁は、魚の引き寄せ画面について、
- 「水面上を捨象して水中のみを表示する」
- 「水中に三重の同心円を表示する」
- 「魚の姿を魚影で表す」
ここまでを「アイデア」と認め、それ以上の表現を「個別具体的な表現」と認定しました。
また、「創作性」については、これまで「釣り★スタ」の特徴を備えた携帯電話用釣りゲームは一つも存在しなかったとして、これを認めています。しかし、実際「アイデア」と「個別具体的な表現」の区別は非常に難しいものがあります。
また、GREEは「創作性」について、「釣り★スタ」配信前の携帯電話用釣りゲーム51作品を取り上げ、「釣り★スタ」の特徴を持つ携帯用ゲームがなかったことを立証しました。しかし、携帯電話用ゲームに限る理由は必ずしもはっきりとはしません。据え置きゲームや通常の携帯ゲームに目を広げれば、「釣り★スタ」と同じような釣りゲームが存在するかも知れません。
判決で認められた訴訟費用の分担割合や、仮執行の範囲を見ても、結局、どちらにも転びかねない微妙な判断だったといえます。
今回の裁判で敗訴したDeNAは、判決後即日控訴し、GREEも附帯控訴しました。
この事件は、現在も知財高裁において係属しています。
ITやコンテンツビジネスの分野は、パクりパクられの文化が存在するといわれています。
この事件の行く末がどちらに転ぶかは蓋を開けてみなければ分かりませんが、今回の判決は、日本のIT・コンテンツビジネスの文化に一定の基準を示したものであるといるでしょう。
今後、ベンチャー企業が新しいビジネスやプロジェクトを立ち上げるにあたって、今までのように類似のコンテンツを流用して立ち上げることが許されない方向に傾いています。新しいビジネスやプロジェクトを立ち上げるにあたっては、IT著作権の視点から詳細に検討する必要がある場面も増えてくるでしょう。
逆に、自社のコンテンツが流用され競合他社が新しいビジネスやプロジェクトを立ち上げた際には、法律が最大の武器になります。本件のGREEのようにコンテンツ使用を差し止めたり、損害賠償することが業界での競争優位の源泉となるでしょう。
【執筆者】 弁護士 渡辺泰央
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。