本稿は、毎年恒例となっているキャピタリストナビの「IPOランキング」です。2023年のIPO件数を、市場別、主幹事証券別、監査法人別、証券代行別に集計しました。
IPO総数は、2021年は市場再編前の駆け込み需要があり121件、2022年はその反動で91件まで減少。今年はどこまで盛り返すか注目が集まっていました。結果として2023年は96件と、前年から5%程の増加で、堅調に推移しました。
なお、2022年には東証の市場再編があったため、2023年は再編後の市場が、初めて通期で運用された年となっています。
それでは、
- 市場
- 主幹事証券
- 監査法人
- 証券代行
ごとに、IPO件数をみていきましょう。
本記事の目次
市場別IPO数ランキング
2年連続で東証グロースがトップ
まずは市場別IPO数のランキングです。
2022年4月に東証再編が行われ、今年は再編2年目です。前年は3月までは旧市場で上場していましたが、今年から1年間のIPOがすべて再編後の市場でカウントされます。市場別IPO数ランキングはどのような動きになるのでしょうか。
以下が過去11年間の市場別IPO数ランキングです。
市場別IPO数ランキング
市場別IPO数ランキング1位は東証グロース市場です。2位の東証スタンダード市場も前年比230%と人気でした。東証グロース市場がIPO総数に占める割合は、68.8%となりました。新興企業向け市場である東証グロース市場は、前年に続き人気があるようです。
一方で、市場再編前の東証マザーズとジャスダックへの上場割合は、2021年が87.2%、2020年が82.8%でした。市場再編前はほとんどの企業が新興企業向け市場を目指していたわけですが、市場再編により流通株式数が要件を充たしている企業は東証スタンダード市場へと上場しているようです。
各市場のコンセプトが明確になったこと、および、再編後は市場区分を変更するときは新規上場基準と同じ審査を受けなければならないことなどが影響しているものと推測されます。
主幹事証券別IPO数ランキング
みずほとSBIが同数で首位
次に主幹事証券別のIPOランキングを見てみましょう。
主幹事証券別IPO数ランキング
※クリックすると拡大します。
※主幹事証券が複数ある場合は、各証券会社に1件ずつ集計しています。
主幹事証券別IPO数は、1位(19件)のみずほとSBIから、5位(17件)のSMBC日興まで、わずか2件差のほぼ同数となっています。ここまでの混戦状態は過去11年で初めての出来事です。
主幹事証券上位5社のIPO件数の推移
11年間の推移を見てみると、野村證券一強時代から、SMBC日興証券、みずほ証券、大和証券、SBI証券が加わった5社による混戦状態が続いており、今年はその傾向が顕著に現れています。かつては、大手証券会社やメガバンク系の証券会社が優勢でしたが、昨今はSBI証券もそこに食い込む形となっています。
監査法人別IPO数ランキング
数年ぶりにトーマツが1位躍進、EY新日本は2位へ
次に監査法人のIPOランキングを見てみましょう。
まずは監査法人ごとのIPO件数のランキングです。
IPO件数ランキング
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※鞍替え、指定替え、TOKYO PRO MARKETを含まないランキングです。
※記事の本文中では読みやすさを優先し「有限責任」の文字を除いた表記としてあります(例:〇〇有限責任監査法人→〇〇監査法人)。
2023年のIPO件数は、3年連続で首位をキープしていたEY新日本監査法人に代わり、監査法人トーマツが首位となりました。かつて、IPOと言えば監査法人トーマツという時期もあり古豪復活の印象も受けますが、トーマツの件数は例年並みの実績であり、EY新日本が2021年から右肩下がりで減少していることが首位交代の大きな要因となっています。
また、あずさ監査法人と太陽監査法人は同数で3位でした。
なお、5位のPwC京都監査法人と6位のPwCあらた監査法人は2023年12月1日付で合併し、「PwC Japan有限責任監査法人」へと名称変更しています。仮に両監査法人のIPO件数を合計すると13件となり、あずさと太陽を抜き3位に浮上します。2024年以降はPwC Japan監査法人が上位に食い込む可能性もあるでしょう。
監査法人の規模別で件数はどう変動したのか
次に監査法人の規模別のIPO件数割合の11年間の推移を見てみましょう。
監査法人の規模別IPO件数割合
※クリックすると拡大します。
※外国監査法人に関しては、国内の提携監査法人の規模に準じて分類し集計しています。(例:KPMG LLP、EY LLP→大手監査法人、BDO USA, LLP→準大手監査法人)
四大監査法人のシェアは2018年を境に右肩下がりとなっており、2023年はついに50%を割りました。過去11年間で最も低くなっています。本記事では2013年以降のデータのみ集計していますが、おそらく過去最低のシェアとなっているかと思われます。
数年前から大手監査法人がIPO監査の受嘱を控えたことで、監査難民問題が発生しました。その引き受け手として、2018年以降は、準大手監査法人の割合が拡大。その後、今度は準大手監査法人のシェア増加が鈍化しています。その影響を受け、2021年以降は中小監査法人のシェアが拡大。来年以降も中小監査法人のシェア増加の傾向は続くのでしょうか。
証券代行別IPO数ランキング
三菱UFJ信託2年連続のトップ
次に、証券代行別IPO数ランキングをご紹介します。
証券代行別IPO数ランキング
証券代行は、2年連続で三菱UFJ信託銀行が1位となりました。
証券代行に関しては、三菱UFJ信託銀行、三井住友信託銀行の2強をみずほ信託銀行が追う形が続いていましたが、今年はみずほ信託銀行が前年比45%に減少し、差が広がっています。
また、11年間のシェアを見ると、1位が三菱UFJ信託銀行44.0%、2位が三井住友信託銀行33.9%の順となっています。
グロース市場の基準引き上げ!?2024年IPOへの影響は
2023年は物価高騰、円安などの影響で、苦しい企業経営となった企業も少なくなかったようです。株式市場については、日経平均が高騰する一方で、グロース株は低迷が続く傾向も見られました。
また、その東証グロース市場については、上場基準の引き上げが検討されていたりと、IPO市況に影響を与えうる出来事も観測されています。市況によっては、IPOからM&Aに切り替えてエグジットするIPO準備会社が増えるかもしれません。2024年のIPO動向はどうなるか、引き続き注目です。
なお、当サイトの姉妹サイトである公認会計士ナビのYouTubeチャンネルでは、IPOとM&A支援を生業とし、「アドレナリン会計士」の異名を取る江黒崇史さんをゲストにお迎えして、2023年度のIPO市場と2024年の予想についての動画を配信しています。再編後の証券市場の動向についても考察しています。ご参考になさってください。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)
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