平成24年の著作権法改正については、違法ダウンロード刑事罰化だけでなく、『リッピングの違法化』も大きな議論を呼びました。
※リッピング(Ripping)とは、DVDビデオソフトや、音楽CDなどのデジタルデータをパソコンに取り込むことを指すパソコン用語。 Wikipediaより
「音楽プレーヤーを聴きながら街を歩いていると職質され、逮捕されてしまう。」
「同じ音楽を違う場所で聴くために、何十枚も同じCDを買わなければならない。」
『リッピングの違法化』という字面だけをみて、このような反応をする人もいるようです。
果たして今回の著作権法改正により、我々にとって不都合な時代はくるのでしょうか。
あらゆるリッピングが違法になるのか
今回の改正のうち『リッピングの違法化』に関する条文として主なものは、次のとおりです。
改正著作権法2条1項20号
技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号及び第百二十条の二第一号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(次号において「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
改正著作権法30条1項2号
技術的保護手段の回避(第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
(下線部が改正部分)
2つの条文が組み合わさってしまい、非常に分かりづらくなっています。
これを『リッピングの違法化』の部分だけ、分かりやすくざっくりと要件整理すると、次のようになります。
- 著作物等の利用に用いられる機器(CD・DVDプレーヤー等)が
- 著作物を利用するにあたって特定の変換を必要とするよう
- 著作物等の音、影像を変換して
- 記録媒体に記録(・送信)している場合に
- 著作権者等の許諾なく
- 3の音、影像を復元することにより複製を行うことは
- 1~6の事実を知りながら行うと
- 私的使用目的の複製であっても、複製権侵害にあたる
これをDVDに利用されている技術CSSで例えると分かりやすいかと思います。
一般に販売されているDVDの映像には、スクランブル(暗号)がかけられて記録されています。スクランブルがかけられることが上記3の「変換」です。
正規のDVDプレーヤーは、そのスクランブルの暗号キーを読み取り、映像を再生しています。この暗号キーを読み取る行為が上記2の「変換」です。
このような技術はアクセスガード(アクセスコントロール)と呼ばれていますが、
このアクセスコントロールがかけられているコンテンツを許可なく復元し、
どのようなデバイスでも観られるようmp4などに変換して記録すること
これが、今回規制の対象とされたという訳です。
コピーガード(コピーコントロール)の回避は従来から違法とされていましたから、今回、アクセスガード(アクセスコントロール)の回避が違法とされたことが
今回の改正の実態です。
我々の生活への影響は?
一般的な音楽CDは、現在コピーガードやアクセスガードがかけられているものは多くありません。したがって、CDをリッピングして音楽プレーヤーで聴くことはOKです。冒頭にあった「CDを何十枚も買わないといけない」という事態も現状では起こる可能性は非常に低いといえます。
問題はDVDですね。
DVDは通常コピーガードやアクセスガードがかけられています。したがって、これをリッピングすることは違法になってしまいます。巷にDVDを簡単にリッピングできるソフトが出回っているようですがもともとガードがかけられていたものですから違法化はしかたないといえなくもありません。
しかし、スマートフォンやiPadの普及によって動画をどこでも気軽に観たいという需要が高まっています。ここまでDVDのリッピングソフトが出回ったのもこれによる大きな需要があったからです。
今回の改正によって、DVDソフトを持っていたとしても、これをiPad等で観るためには原則として新たにiPad用の動画を購入しなければならなくなりました。
この限りで、今回の『リッピング違法化』は我々の生活に影響が生じることになったことになります。
逮捕はされるの?
今回のリッピング違法化には、刑事罰は規定されませんでした。
したがって、違法なリッピングを行っても、逮捕されることはありません。冒頭の「音楽プレーヤーを街中で聴いていれば職質され逮捕される」といった事態は起こりません。
しかし、コピーコントロールやアクセスコントロールの回避技術を提供する行為は、不正競争防止法により刑事罰が科されています。また、今回の違法ダウンロード刑事罰化も、ダウンロードが違法化されてからわずか3年後に刑事罰が科せられることになりました。社会の流れによって、今後リッピングにも刑事罰が科せられることになるかも知れません。
技術も発達し、違法な行為が容易になっていることも事実ですが過度の規制により、私生活やビジネスに悪影響がでないことを願ってやみません。
※本記事はIT著作権.comからの転載記事です。